第6話 雷よりも強い絆
鈴堂寺の事件が解決して、問題児の俺を見下していた教師たちは何やら悔しそうにしていたが、そんなもん知ったこっちゃない。彼らの態度は、鈴堂寺のそれと同様のものだった。捨て猫を見るような侮蔑の目で見られるのは慣れてます。
悠真からは会議後にお礼を言われた。あの時は内心、悠真に責任がいかないかヒヤヒヤしたけど、言ったらからかわれそうだったから、黙っておいた。
蓮からは珍しいことに、謝罪があった。あったにはあったのだが・・・。
「あんたが余計なことをするバカだとは知っていたけど、・・・悪かったわね。というか、もっと別の介入の仕方があったでしょう!あんな喧嘩売るような態度でドアを蹴破ってくるなんて!本当、バカじゃないの!」
お詫びという名の貶けなし?であった。
ホームルームも終わって、やっとか、という思いで帰宅準備をするものの。
「おい、天野。お前今日、日直だから書類と日誌の提出、忘れるなよ」
腰を浮かせたところで、先生に去り際ぎわ、指をさされて忠告されてしまった。そうだった!忘れてた!
「あ!日誌書いてない。プリントもまとめてない!」
しまった!団子三人組を摘発できてホクホクしすぎた。
「その様子じゃ、日直の仕事一つもしてなかったね?㝫」
「ばっかじゃないの!さっさとしなさいよ!」
悠真に苦笑され、蓮に怒鳴られた。
帰りたい。
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春瀬におちょくられながらも、帰りたい思い一心に仕事を終えた。疲れた肩をほぐしながら、教室を出て鍵をかける。結局、三人とも俺が終えるのを待ってくれた。
あの事件から、俺たちは極力みんなで行動するようになっていた。昔からそうだったんだけど、最近は事件の件もあり特に意識するようになったというか・・・。
「くそっ、春瀬のせいで集中できなかった」
「うわっ、人のせいですか!最低です!天野っちが集中なんてありえないですし、結局は同じことじゃないですか」
「お前、俺のことなんだと思ってんだよ・・・」
「えーと、面倒くさがり、サボリ魔、授業中寝てる、鈍感、ニート、ろくでなし、あとは・・・」
「わかった。お前もう喋るな。ていうか、最後のは何だ!ろくでなしはなんか違うだろ!」
一階の廊下の窓からは赤い夕日の日差しが差し込んでいる。沈みかけてるから、もう夜になるのか。廊下を歩きながらぼんやりと外を眺めていると、不意に声がかかった。
「お。平野たちか。今日はお疲れ様だったな」
手を挙げたのは水戸先輩だった。前方に何人か見える。今日の会議の主要メンバーだった先輩たちだ。
先頭を歩くのは学内総会長である宮寺秀清(みやでらしゅうせい)先輩、その後ろに水戸先輩、副会長の水谷彰(みずたにあきら)先輩、会計の高嶺華(たかねはな)先輩と大友直昭(おおともなおあき)、書記の近藤深鈴(こんどうみすず)先輩。庶務は今回いないらしい。
2年である俺らと同期の大友、庶務担当の内原以外は、全員3年だ。
「先輩方、お疲れ様です」
悠真と蓮は腰を折って挨拶していた。うげっ!役員になるとこうも堅苦しいのか。目の前の光景にうんざりしていると、冷めた声が降りかかった。
「普段の行動は周りの信頼に関係します。あなたも平野くんたちを見習って、慎重に行動しなさい」
高嶺先輩だった。絶対零度の視線を俺に向けてくる。もしかしなくても、今日の会議のことを言っているんだろう。随分と根に持っているようで、粛然(しゅくぜん)とした態度を崩さないまでも、威圧感がある。・・・怖いから。言っていることは正論なので、後ろめたさに思わず目をそらしてしまった。蓮も彼女の言い方にムッとしながらも反論はしなかったようだ。勝ち誇ったような笑みを浮かべた先輩にイラっとしたけど。
苦笑を浮かべた水谷先輩は、強面ながらも悠真のような穏やかな性格をしている。近藤先輩は、あたふたしながら仲裁しようとして、失敗していた。ちょっと忙せわしない人である。大友はまたか、という感じでため息。苦労人の風貌だ。宮寺先輩は無言。普段から滅多に口を開かないが、表情も薄いためその分何か雰囲気がある。
結局、宮寺先輩は、こちらに一瞥をくれただけで通り過ぎて行った。一瞬、春瀬を見たのは気のせいだろうか。春瀬は春瀬で、珍しく険しい顔をしていた。
去り際に、水谷先輩に「頑張れよ」とか言われ、大友にポンポンと肩を叩かれた。何を頑張るんですか。そして、何のフォローだっ。
「鈴堂寺に関してはお手柄だったぞ。もう少しお前がおとなしかったら、なお良かったが」
笑いながら水戸先輩が言った。そうですか、あなたたちも俺を問題児扱いですか。まあ、自覚はしていましたけどね。
「なんなの、あの嫌味な女」
仏頂面で蓮がぼそっとつぶやく。木刀を握りしめると更に迫力があるから、やめてくれ。いまにも振り回しそうで危ない。
「おいおい。一応・・先輩なんだから」
「そういう㝫も失礼だな」
「天野っちが失礼なのは、いまに始まったことじゃないじゃないですか〜」
「お前は俺に失礼だよな」
正門を抜けると、バス停に向かって道を下る。
あの駄菓子屋があった場所に差し掛かると、自然とみんなの口数が減ってくる。その道は一部、封鎖されていて立ち入り禁止となっているが、黒く焦げた跡は当時を思い出させる。
ふと、吸い込まれるようにそこへ目を向けると。一つの人影がうごめいていた。フードをかぶっていて顔は見えないが、なんか怪しい。あ、俺たちに気づいて、裏に続く細道へと入っていった。
「なあ、あれって・・・。あ、おい!」
誰に問いかけるでもなく口にしたが、反射的に蓮が影を追って飛び出して行った。
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