第4話 雷よりも団子の証拠!
『先週おこった成学高校生の失踪事件はいまだに難航していますが、目撃者である彼の友人である同級生4名はけがを負わされ入院。そこから警察は犯人を凶悪な通り魔ととらえ周囲に厳重注意を促しています。地面に残っていた後から犯人は爆薬を使ったと考えられ-----------』
「ん~、結構的外れなこと言っちゃってるけど、大丈夫かね」
「それよりも康介っち・・・」
「ああ、あいつ大丈夫かな」
こっそり取り出したアイフォンのニュースを再生しながらコメントした俺の目の前で、春瀬がコウの机を見てシュンッとなる。そんな春瀬を励ます言葉も見つからず平凡な返事を返す事しかできない。
くそぅ、自分の語彙力と機微のなさが恨めしい!
「ええ、心配です。全く、通り魔さんは何をしているんでしょうか、メガネを落としていくなんて!!これじゃあ康介っちが何にも見えないじゃないですか!今頃何も視界がぼやけて周りがよく見えない恐怖と戦っているはずです!攫うならちゃんとメガネも一緒に攫えってんですっ!」
「お前の心配はそこか!!!」
リスのごとく頰を膨らませてぷりぷり怒っている春瀬に脱力してしまう。
ずれている。なんかずれてるよ春瀬さん!
「ほんっと・・・。なんで消えるんだか・・・」
「え、何か言いましたか?」
チャイムの音がかぶさって、俺の声は春瀬に届かなかったらしい。
「いや、なんでも?あ、そう言えば一限目移動教室だろ。早めに行っとこうか」
「そうですね〜。周りも煩いことですし」
煩い。とは、本当にその通りだと思う。学校への道のり、廊下、教室の前を歩くたびにひそひそ聞こえる他生徒の会話や視線は、今回の事件に関わった俺たちへの興味本位、もしくは憐れみを含んでいた。そんな鬱陶しい程の、同情にうんざりしつつも、早く終わらないかなー、なんてポケーッと思っていたりする。
ちなみに悠真と蓮は先に登校しており、朝から姿を見ていない。クラス兼学年の委員長である悠真、全学年の風紀副委員長の蓮は全校役員会議に呼ばれていたからだ。
外に面する廊下の窓から外のさわさわしている木を見つめて思う。大変そうだなー。
もはや他人事である。
日本全国で話題になったこの事件は、俺たちの名前こそ発表はされていないが学校のみんなにはすぐにわかったはずだ。事件が起きたのは学校のすぐ近くだしね。噂に飢えている女子や、話題のネタを探していた男子にも、どこから発生したのかもわからない根も葉もない噂があっという間に広まった。
コウを殺害したのは俺たちじゃないか・・・とか、暴力団と関わっている・・・だとか。アホかっ!高校生が殺人、しかも暴力関係に関わってたら普段の素行面を見なさいっての!悠真と蓮は優等生だし、春瀬も何気に成績トップで先生から評判あるし・・・問題といえば・・・俺か!!
んー。俺に関しては矯正のしようもないけど・・・気にしない!
これを聞かれた悠真に呆れられ、蓮に追いかけ回されたけど。でもまぁ、噂なんてピークが過ぎたら自然と消えていく。そして古い噂は新しいうわさにかき消される。それはいつでも、どんなひどい事件でもそうだ。そうだった。
ま!要は時間が過ぎればみんなの興奮は冷めるということですね!
それがどれだけの期間必要とするかわからないけど・・・。
あれから一週間が過ぎた。
依然として、コウはどこを探しても見つからない。
コウが姿を消す前のことをなにか思い出そうにも、記憶に一部欠損があるため一番重要なところで何があったかわからなかった。
昼休み、いつものごとくひっそりと屋上の扉を開く。まだ冷えるが人のいないところなんてここくらいしかないんじゃないだろうか。
はしごも何もない壁を、水道管?のような管に足をかけて上へと登る。学校の中で一番空に近い屋上に出た俺は、コンクリート製の床に背を預けて目をつぶる。ふんわりと風がやってきて肌を撫でていくのが心地いい。
------------一週間前
白い光が視界を埋め尽くした後、強い衝撃が背中から全身にいきわたり麻痺した。
次に闇が降りてきたのは目を閉じたからだろう。ん?でも目を見開いても暗かったような・・・。でもあの時は夜でもなかったしな。
目を覚ますと目の前にいた幼馴染は何針か縫ったが幸いにもそれ以上の傷を負っていなかったらしく、病院を退院したのはその翌日だった。俺も少なくとも一週間の入院を強いられた。その際、学校に行かなくていい!パラダイスか!とも思ったが・・・結局警察や記者やらがしつこく面会を取り付けてきて、ごろごろしているどころじゃなかったのだ。蓮と春瀬も精神病院に数日間入院することになったらしい。
今朝のニュースの通り、あの事件を警察は爆薬を使った危険度の高い過激な通り魔の仕業だと思っているようだが、俺たちは否定している。あんな爆薬を使ったのならなぜ死体として発見されない?大学教授の意見では、あの威力であれば人が介在する間も無く肉片と化してしまうほどのものらしい。
そして
----雷が落ちるっていってんだよ。もうちょいで落ちるぞ
あの婆さんの言ってた言葉が頭から離れなかった。
爆薬もない、不審者でもない、となると残るは雷。視界が一面白くなったのは雷の光だったからというのが一番有力だろう。あのあと周りの電子機器類がイカれたらしいし。
・・・でも、雷が落ちて人が消えるのか?しかも何で婆さんまで消えたんだ?あの後駄菓子屋を探してもいなかったのだ。というか警察の調べでは、あの駄菓子屋はもともと人など住んでいなかった廃墟らしい。やだ、怖い。軽くホラーなんですけど!
「...でさー、あいつらどうする?」
「も、もう少しなんだよなぁ」
「くそっ、何だよあの態度は!?」
眉を寄せて必死に思い返していた俺の耳に、扉を乱暴に開く音と同時に3人の聞き慣れた声が届いた。
なんだろうと思い、ムクッと下を淵から覗き込むと。あらあら、団子三兄弟じゃないの。
団子三兄弟とはその名の通り、非常にきれいな丸をえがいている輪郭を持っていることからそう呼んでいる。しかし、目の前でそれを呼んでしまったら団子がみるみる桜餅になっていくのだ。
だから、桜餅兄弟っていうあだ名と迷ったんだが・・・
って、そんなことよりも!
こいつら、また・・・
「ほんっと、粘り強いな。さっさと引退しろよあの堅物」
「マジそれな」
「で、でもさ、あれだけ噂ながしとけば、な、なんとかなるんじゃないかな」
「なんとかなるって、悠真を蹴落とすことについて?」
「う、うん」
「なるほど。あの変な噂はお前らが元凶だったんだ」
「ああ、あいつがいなくなれば副会長である俺が昇格できる。皆なんであいつを贔屓ひいきするのかわからん。どうせ親の影響力かなんかで上に掛け合ったんだろう。卑怯な手を使いやがって。俺の方が・・・って、なんで今更聞くんだよ」
「え、俺何にもしゃべってないけど」
「ぼ、ぼくも」
「は?じゃあ誰が...」
「わざわざ自白してくれてありがとう」
3人が一斉に振り返る。まあ、そこには俺しかいないんだけどね。
俺は春瀬を見習って、ニンマリと笑みを描きながら握っていた録音機を相手に見えるようにかざした。
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