第3話 雷と神隠し?

「・・・ぅ」


何か聞こえる。

あれ、揺れてる?

船に揺られてるのか、気持ち悪い。


でも、こことこだろう。


「・・りゅぅ」


呼んでるのか。俺の名前?


「窿っ!」

「っ!?」


完全に意識が覚醒し目の前にあったのは心配そうな顔の悠真の顔だった。揺れていると思っていたのは悠真が俺をゆすって起こそうとしていたからだろう。


「あれ、俺寝てたか?」


ひんやりした地面を背に感じているのは気のせいではない。本当に寝ていたようだ。え、なんで?


「無事でよかった。起きれる?」


肩の力を抜いてほっとした悠真が手を差し出してくる。男相手に律儀だな、そういおうとした瞬間体中に鋭い痛みが走った。起き上がりかけていた体は痛みで硬直し激痛に顔をしかめる。


「痛むかな、まだ無理そうなら寝といたほうがいい」


「いや、大丈夫。てかなんで・・」


悠真の手を借りながら無理やり立ち上がる。なんで俺は寝てたと問いかけようとして口をつぐんだ。


言葉が出なかったのだ。


俺たちがいるのは駄菓子屋だが、屋根も壁も床も木製だったところはすべて木がはがれ地面に落ち、台にあったお菓子はすべて床に散乱しこげている。


床に転がっている飴玉がなかったらここが駄菓子屋だとはわからないほどに原型を保っていなかった。


「俺もあんまり覚えてないが一応蓮花と鳴海は無事、っ・・・」


目を見開いて周りを見渡す俺に喋りかけた悠真が突然腕を抑えてしゃがみ込んだ。


抑えた手から赤い血が流れている。


「おいっ、大丈夫か!」


とっさに俺もしゃがみ覗き込むが、


「大丈夫。ちょっとそこの木柱の木に引っ掛けただけだから」


こんな時でも笑うのはさすがだが、ちょっと心配だぞ。お前、すぐに我慢するんだから。


しかし、引きつった顔を、それでも無理に笑みに直してそう言った悠真はまた立ち上がった。


周りにある木はすべて割れていて断面はギザギザの状態だ。少し擦っただけでもかすり傷にはなるだろう。気をつけないと。


悠真の傷はそんなに大したことではないらしく安心したが、先の悠真の言葉を思い出して不安が一気に押し寄せてきた。



『一応蓮花と鳴海は無事ーーー』


えっと・・・


、コウは?






俺が寝ている間にみんなの安否を確認しているなら、コウも見ているはずだ。それにあいつは蓮の近くにいた。なのにコウだけの無事が確認できてないって・・・


え、嘘だよな・・・?


そこまでしか考えることができなかった。 


言い忘れただけだよな!?


俺は悠真を見つめたが、悠真は視線を顔ごと床にそらした。もう、それだけで十分だったが、信じられなかった。

生きてるよな!?


俺はたまらなくなって、外へと駆け出した。悠真はそれを止めずに後ろからついてきている。いま、あいつがどんな顔をしているかはわからないが。


前に踏み出すたびに焦げ臭いにおいとともに黒い煙が押し寄せてくる。焦げ臭いのはもう慣れた気がしなくもないが、それでも刺激に顔をしかめてしまう。


蓮のいる場所は以前と変わらず、マンホールの手前にいた。その目の前の地面は炭をぶちまけたように真黒で、そこから煙がシュウシュウ音を立てて空へと昇っていた。

変わっていたのはそれだけではなく、蓮が道路のわきで倒れた状態で、そこに春瀬が付き添っている。


二人とも意識はあるようだが、その表情は無表情で、道路の中央を見つめていた。その視線を追っていくと、マンホールらしきでこぼこしたものの上にメガネが落ちているのが見える。


よく知ってる銀縁のメガネ。




二か月前、コウがそれをかけてはしゃいでいた。


これでインテリに見えるだろうと自慢していた。


筋肉ムキムキの野郎にミスマッチの銀縁をみて大爆笑したのを覚えている。


しかし、今その陽気な持ち主は見当たらない。


なぁ、どこにいるんだ?

あ、救急車が来て運ばれたのか!


そう思って、その期待を持って振り返る。予想していた通り、悠真と目が合った。


だが、その表情は初めて見るものだった。複雑そうで、泣き笑いみたいな、迷子になった子供のような・・・。




それでだいたいわかるのはわかる。でもさ、!じゃあ、どこに言ったんだよ!ただ聞きたいのはそれ一つだけだった。


「康介は?」


悠真は何も言えずに俺の顔を見て鎮痛そうにうつむいた。俺、そんなひどい顔してるか?


なあ。


コウがどこに言ったか、もしくは消えたか・・・蓮も春瀬も誰も答えを知らなかった。


灰色の淀んだ沈黙を破ったのは誰かが発した答えではなく、遠くから聞こえてくる救急車とパトカーのサイレンだった。

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