World Travel Story

第1話 プロローグ


 雷鳴が木霊する暗闇の中、二人の男が対峙していた。

 絹糸のように繊細な黄色の髪を靡かせ、漆黒を身に纏う男。血の如き深紅の瞳を光らせながら、目の前の男を恨めしそうに蔑んでいた。

 彼に対峙するのは暖炉のように柔らかな朱色の髪を結い、純白を身に纏う男。海の如き紺碧の瞳で、目前の男をじっと睨んでいた。

 

 二人は対照的な存在だ。

 漆黒と純白。

 冷酷と温厚。

 悪しき心と善き心。


 そして、漆黒の男は純白の男に手を翳す。翳された掌は一瞬で光を集め、純白の男は咄嗟に身構えるものの――それは間に合わず。


「うぐっ!」


 放たれた光と共に刃のような突風が吹き荒れ、純白の男は鈍い音を奏でながら壁に全身を強打した。ずるずると崩れ落ちた彼の口からはだらりと鮮血が零れ、痛みと悔しさで顔を歪ませながら「お前ッ……何を、するつもりだ……」と声を振り絞る。


「貴様ならわかる筈だ。俺でもある、貴様ならば」


 漆黒の男は冷酷に言い捨てた。静かな声色だったが、その目からは憎しみの炎に燃えた内なる狂気が垣間見える。


「この世界に……奴等に……復讐を」


 ――復讐だと? まさか、あいつ!


 憶測の断片がパズルのように組み上がり、最悪の展開を完成させてしまった。絶対に止めなければならないと警告のような直感を察し、彼は霞む視界の中で必死に手を伸ばす。


「待てッ!」


 しかし次の瞬間、その場の空間がぐにゃりとねじ曲がり、漆黒の男は戸惑う事なく歪んだ空間に足を踏み入れた。空間が完全に漆黒の男を飲み込むと歪みは収まり、同時に漆黒の男ごと跡形もなく消えてしまった。

 人間とは思えない摩訶不思議な力を自由自在に操り、一瞬にしてどこかへ消え去った漆黒の男。

 それに対し、よろよろと力なく立ち上がる純白の男。


「何とか、しなければ」


 その場に取り残された純白の男は自分の頭に手を当てる。手は淡い光を放ち、その光が頭の傷を徐々に回復させていた。目を閉じながら、彼は決意を胸に口を開く。


「壊させて、たまるものか」



 超越的な力を操る、二人の存在。

 彼等は、神という存在“だった”。

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