第29話 運命の出会い。

 とりあえず、移動先の教室に向かうことにしたのだが、結局平本と話すことはできなかった。


 授業中はノートをとっているため話しかけづらく、休み時間に話しかけようとしても、皆口のところやトイレなどに行ってしまい、会話どころか目も合わせることのできないまま昼休みを迎えることになった。



 予想通り、平本はこちらを見向きもせずに秀也くん達の集まりの方へと行ってしまった。


 流石にあの中には入れない。


 平本だけならまだしも、あそこには……。



 複雑な気持ちのまま、そのグループを横目で見ていると皆口と目が合った。


 彼は思いもよらぬことを堂々と、皆が聞こえるような声量で言った。


「春日井く~ん、一緒に飯食べようよ~!」



 は??


 こいつはサイコパスか???


 誰のせいで平本に嫌われたと思っているんだ????


 皆口は知らないかもしれないけど、そのあと柏木にも怒られたんだぞ?????


 平本がいて、柏木がいて、龍ヶ崎がいる。

 そんなところに行けるわけがない!!


「あ、いや、俺は……」


「ゆーま!早く来なよ!」


 皆口の後ろから龍ヶ崎が呼び掛けてくる。

 彼女はきっと、平本との仲直りのチャンスを作るために誘ってくれているのだろう。

 本当に優しい人だ。


 しかし、隣の柏木を見てほしい。


 完全に殺人鬼の目をしている。


 ぶっ殺す。


 確実にそう言っている。


 絶対に行けない。そこではご飯を食べれない。

 きっと死ぬ。いや、間違いなく死ぬ。


「ご、ご。ごめんなさい!」


 恐怖が思考の8割を占めたときには、既にそう叫びながら教室から飛び出していた。



 必死で廊下を駆け抜ける。


 こんな時、三つ編みメガネの委員長キャラがいたら、「廊下は走っちゃダメ!」と注意されそうだ。てか、されてみたい。



 そして廊下の曲がり角に差し掛かる。


 完全に油断していた。


 本当はわかっていたはずなんだ。


 曲がり角は危険だと。



「うわっ!」

「きゃっ!」


 角の向こう側から来ていた人と勢いよくぶつかってしまった。


 相手は女子だった。


 お互い倒れてしまったが、どうやら怪我はないようだ。



「いった~。なんなのよもう。」


 そう言って起き上がる彼女と目が合う。


 綺麗な瞳をしていた。

 吸い込まれるような感覚になる。



 もしかして、これが曲がり角イベントなのか。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る