第28話 クエスチョン。

 保健室を後にし、教室へと戻るまでの間、去年、青山先生と話したことを思い出す。




「春日井くんは、青春ってなんだと思う?」


「青春、ですか?」


 教壇に立つ青山先生が突然聞いてきた。



 ここは夕日が差し込む、2人きりの放課後の教室。


 規則正しく並べられた机の最前列、その真ん中の席に座っている自分は、その問いにすぐ答えることができなかった。


「そう、青春。」


「うーん、すみません。俺にはよくわかりません。でも、強いて言うなら勉強、友情、部活に恋愛。後は努力と挫折なのかなって思います。」


 わからなくて当然。


 特に勉強ができるわけではないし、友達も恋人もいなければ部活にも入っていない。

 努力もしてないのだから、挫折ができるはずもない。


 だから強いたそれは、あくまでイメージでしかなかった。



「なるほどね。僕も学生の頃は似たような考えだったんだ。」


 うんうん。と頷きながら続きを話し始める。


「僕は青春というものがなんなのか知りたかったから、たくさん勉強したし、友達ともいっぱい遊んだ。部活も恋愛もした。だけどどれも違うような気がして、結局自分の中で答えを見つけることができなくて。」

 青山先生は憂いを帯びた瞳を窓の外へと向けた。


 それはまるで現実から目を背けているような感じだった。


「だから僕は教師になったんだ。この視点からなら見えるものがあるんじゃないかと思って。」


「……なにか、見えましたか?」


 彼は視線をこちらへ戻し、こう言った。


「いいや、さっぱり。だからお願いだ。僕の代わりに見つけてくれないか?青春とはなにか。その答えを教えてほしい。」




 と、そんな懐かしの教室の前にたどり着き、意識を思い出から現実に戻す。



 行くぞ。


 固めた決意を胸に、なんの躊躇いもなく教室の扉を勢いよく開ける。



 しかし、教室の中には誰もいない。


 今回も決意の空回り。


 そう、移動教室だったのだ。


 どこかホッとしている自分がいたが、気づかないふりをした。



 だが、勇気を出して頑張ったことには違いない。


 自分へのご褒美に貰ったばかりの飴を舐める。


 美味しい。おいしい。オイシイ。泣。



 飴はとても甘い。

 でも、現実は微塵も甘くなかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る