第27話 メロンメロン。

 格闘すること数分。


「そうか。そこまで嫌なら仕方がない。……ちなみに、私が入れと言っているのは討論部なのだが。」


「えっ、それって。」


 明かされた部活名を聞き、驚きを隠せない。


「そう、君が大好きな青山先生が顧問をしていた部活だ。」



 青山先生。『青山あおやま 士郎しろう』先生。

 去年の担任で自分にとっての恩師だ。


 青山先生がいたからこそ今の自分があると言ってもいい。


「私はその青山に君のことをよろしく頼むと言われていてな。そんな私が顧問をしている部活に入って欲しいと、青山も思っているんじゃないのか?」


 それはずるい。

 あの青山先生の願いだ。と、そう言われてしまえば断ることはできない。



「……はぁ。わかりました。入りますよ。」


「本当か?助かるぞ、春日井。」


「どうして緑川先生が助かるんですか?」


「え?あ、それは、なんとなくだ。」


 その返事は、歯切れの悪いものだった。



 ただ、そんなことはどうだっていい。


 そもそも討論部とは一体どんな部活なのか。


 部活動などという集団行動を上手くやっていけるのか。


 ……可愛い先輩や後輩はいるのだろうか。


 頭の中は疑問と不安と少しの期待でいっぱいになっていた。



「とにかく、これで入部決定だ。書類はこちらで用意しておく。今日の放課後から部室に来るようにな。」


 しかし、ここまで来たら色々考えていても仕方がない。

 猪突猛進でいこう。


「は、はい。ところで部室って?」


「あぁ、部室は会議室だ。」


「えっ?!会議室使えるんですか?」



 会議室。

 それは文字通り、会議をする部屋なのだが、普段は先生達や生徒会の人達だけが使うため、普通の生徒は立ち入る機会すらない。


 そんな場所が部室として使えるなんて、もしかしたらこの部は意外と凄いのかもしれない。



「まあな。部活とはいえ、討論。つまり会議だ。会議室がうってつけだろう。」


 だからってそう簡単に使える場所でもない気がするが。


 と、その時!

 突然閃いてしまった。


 はっ。ま、まさか、緑川先生?!


 改めて彼女を見る。

 スタイルも良く、顔立ちも整っている方だ。


 この美貌で校長、いや、理事長までもを虜にしてこの部室を?!


「お前何か変なこと考えてないか?」


「い、いえ!なにも!!」



 龍ヶ崎といい緑川先生といい、心を読みすぎだ。


 これが女の勘ってやつなのか?


 だとすれば、男は敵わないな。



「ならいい。ん、もうこんな時間か。そろそろ教室に戻ったらどうだ。」


 緑川先生は時計を見てそう言った。


 ここに来て約20分ほどが経っていた。


「そう、ですね。そろそろ戻ります。」


 気乗りはしないが、既に覚悟は決めてある。

 今回こそは、平本の隣の席へ行こう。



「まぁ、頑張れよ!」


 そう言って、緑川先生はまた飴をくれた。

 とても嬉しい。



 何味か確認するとメロンの飴だった。


 丁度良い。

 だって優しい緑川先生にメロンメロンだから。

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