第26話 届かない願い。

 しばらくそのままでいると、担任の赤木先生が階段を登ってきた。


「おぉ、春日井、心配したぞ。保健室にいたらしいな。次からは誰かに言付けてから、って座り込んでどうした?まだ体調悪いのか?」


「い、いえ。大丈夫です。」


 慌てて立ち上がる。

 しかし、赤木先生はまだ心配しているようだ。


「そうか?んー、でもまだ顔色悪いみたいだしな。もう少し保健室で休んでろ。次の授業の先生には俺から言っておく。」


 顔色が悪いのは、クラスのギャルに突き飛ばされたからです。



「え、あ、わかりました。すみません。」


 そう言って頭を下げると、赤木先生が肩に手をポンっと乗せてきた。


「辛いときは無理するなよ。じゃ、またな!」


 ……かっこいい。かっこよすぎる。


 これは絶対にモテるやつだ。いつか真似しよう。


 まぁ、そんな機会ないと思うけど。



 そして、今登ってきた階段をまた降り、保健室へと向かうことにした。



 保健室に着き、ガラガラと音の鳴る扉をできるだけゆっくりと動かす。


 もしも中で休んでいる人がいたら、迷惑をかけないようにしないといけない。


 それがサボる人間の最低限のマナーのような気がする。


 しかし中には緑川先生しかいなかった。



「ん?春日井か。どうした?怒られにきたのか?」


 それは勘弁してほしい。



「い、いえ。赤木先生にまだ休んでろって言われて。」


「あぁ、確かにさっき保健室にいたと伝えたら心配していたな。ならちょうど良い。君に少し話があったんだ。」


 え、やっぱり怒られる?


 ……いや、違う。

 女教師が男子生徒にする話なんて1つだけ。


 そう!愛の告白だ!!


「一昨日貸した体操服を返せ。」


 全然違った。



「あ、すみません。忘れてしまって……。」


「そうか。ならこれで貸しが2つ。体操服と、さっきのサボりを誤魔化してやったことだ。わかるな?」


「はい。」


「だから私の言うことを2つ聞け。」


「はい?」


「言っている意味、わかるよな?」


「は、はい!」


 怖い。めっちゃ怖い。



「話が早くて助かる。早速、1つ目の命令だが、」


 今、命令って。

 この人、めちゃくちゃだ。


「ちょ、ちょっと待ってください!言っている意味はわかりますけど、聞けるかどうかはわかりませんよ!」


「とにかく、1つ目。私が顧問をしている部活に入れ。」


 えぇ……。

「い、いや、その。部活には興味ないので。」


「なら2つ目だ。私が顧問をしている部活に入れ。」



 マジで全く話通じないんですけど。


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