第25話 辛すぎて辛い。

 かけっこの次はかくれんぼ。


「ゆーまこっち!」


「ちょっ、待って。」


 流石、サボりに慣れているギャル。

 先生達に見つからないルートを知っているようだ。



 そして無事に校舎に入ることができた、が。


「よーし、これで一安心!後はトイレに行ってましたー。とか適当に言えばいいよ!」


「うん、わかっ……。あ、う、後ろ……。」


 突然の出会いに、龍ヶ崎の背後を指す指が震えてしまう。



「へ?後ろ?あ……。か、香ちゃんっ?!」


「ずいぶんと長いトイレだな、龍ヶ崎。それに香ちゃんじゃなくて緑川先生と呼べと言っているだろう?」


 威圧感でこの場の重力が3倍にも感じられた。



 慌てて龍ヶ崎が誤魔化そうとする。


「かお、じゃなくて緑川先生!これはその、ね?ゆーま?」


「え?!あ、その、え?」


 いや困る。



「春日井、お前も何をやっているんだ。」


「こ、これはその……。す、すみません。」


「はぁ……。まあいい。春日井は初犯だ。今回だけ特別に保健室に居たことにしてやる。」


「あーしは?!」


「お前はダメだ。私と来い。」


 緑川先生は龍ヶ崎の襟を掴み、引きずって行く。


「わぁぁ!ごめんなさーい!!」


「龍ヶ崎!静かにしろ!」


 まるで嵐のような一時だった。



 ……何はともあれ龍ヶ崎のおかげで教室に戻る勇気は出た。


 行こう、平本の隣の席へ。と、意気込み、階段を登っていると次の敵が現れる。


 見るからに怒っている柏木だ。


 彼女は最上段から話しかけてくる。

「綺羅と何してたの?」


 中々の圧がある。


 しかし、こちらは スキル・勇気 を持っているため、この程度の攻撃では怯まない。


 階段を登りながら返事をする。


「べ、べべ、別に何も?!」


 ……足の震えが止まらないのはただ疲れているだけだ。絶対。



 なんとか階段を登り終え、柏木の横に立つ。

 やばい、緊張で息ができない。


「何をしてたのか聞いてるんだけど。」


「え、あ、あの、、。す、少し話してた、だけ、です……。」


 あっさりと撃沈。



「そう。悪いけど、もう綺羅には関わらないで。」


 え?


「ど、どうして。」


「いいから。もしこれ以上綺羅に近づいたら、」


 その瞬間、胸ぐらを捕まれ一気引き寄せられる。


 咄嗟の出来事に反応ができず、気がつけば息がかかるくらいの距離まで顔が近づいていた。


 そして柏木は耳元で囁く。


「ぶっ殺すから。」



 全身が凍るような感覚。


 これは緊張でも、トキメキでもない。


 ただの恐怖だ。



 こんな状態の人間を突き飛ばすことは普通の女子高校生でも容易。



 壁に叩きつけられた体は重力のまま地面にへたり込む。


 次の攻撃に備え必死に顔を上げるが、柏木は目も合わせずにどこかへ行ってしまった。



 ようやく肩の力が抜ける。


 しかし、大して話したこともない女子にいきなりキレられるなんて……。


 この青春のスパイスは少し辛すぎだ。

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