第17話 理由は不必要。

「あのー。」


 声をかけても平本は反応しない。

 それでも一応、謝っておくことにした。


「本人達も否定してたし、あくまで噂だよ。まあ、噂だとしてもそういうことを伝え忘れていたのは、ごめん…。」


「…春日井くんはその噂、どう思ってるの?」


 すると平本は、顔を伏せたままだったが返事をしてくれた。



「どうって…。よく知らないけど、正直なところ、もしかしたら付き合ってる可能性もあるのかなって。」


「やっぱりそうだよね。はぁ。なんだか私、バカみたいじゃない?」


「そんなことはないと思うけど。」


 そうだ、バカではない。


 バカではなく、恋で前しか見えなくなっているだけの、普通の女の子なのだろう。きっと。



「やっぱり噂なんだし、気にしなくていいと思うよ。」


 ありきたりな励ましでどうにかしようとすると、平本は顔をあげ、言い返してきた。


「でも春日井くんはその噂を信じてるんでしょ?それに噂とはいえ、毛のないところに抜け毛は落ちないって言うし。」


 いや、それを言うなら火のないところに煙はたたないだろ。

 落ち込むのか、ふざけるのかどちらかにしてほしい。



「信じてるわけじゃなくて、そういう可能性もあるのかもって思っただけだよ。それに平本が本気なら秀也くんも考えてくれるかもしれないし。」


 ここで秀也くんには別に好きな人がいるらしい、なんて言ってしまったら本当に終わってしまう気がして、つい隠してしまった。



「え、そっか。じゃあもう許すよ。」


 そう言う平本は、どこかまんざらでもない様子だった。



「てか私も龍ヶ崎さんのこと皆にばらしちゃったし、おあいこだよね。」


「なんだかその言い方だと俺が本当に好きみたいだよね。マジで違うから!」


「え?そうなの?朝とか仲良さそうに話してたから、私てっきり…。」


 そうか。彼女はこんな勘違いをしていたからご飯の前にあんなことを言っていたのか。気づけてよかった。



「やっぱり私、バカみたい。」


 女の子が照れながらする自虐は、どこかの誰かとは違って可愛らしいもので、見ている方も自然と笑みがこぼれてきていた。



 初めは平本のことを面倒な人だと思った。

 いきなり好きな人とご飯食べるのを手伝わせてきて、謎の勘違いをして。


 でも恋に熱心な姿を見て、変わった。

 今は心の中で応援すらしている。


 そんな彼女とならきっと、仲良くなれる。

 特に根拠は無いけど、そういう気がしていた。

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