第14話 変わり身の術。
「ねぇ、私達も一緒に食べても良いかな?」
秀也くんを目の前にしても、平本は平然としていた。
普通、好きな人をご飯に誘うときはもう少し緊張したりするものではないのだろうか。経験がないからよくわからないけど。
「転校生の平本さんだっけ?いいよ、一緒に食べよう。」
「うん、ありがと!」
前言撤回。
喜ぶ平本の手が少しだけ震えているのが見えた。
その手を見て、やっぱり平本も緊張していたんだな。と思うと、少しだけ可愛く見えてくる。
「えっと、後ろの君は…。」
そんなことを考えていると秀也くんがこちらの存在に気づいた。てか、もう少し早く気づいてくれても良かったのでは?
「あ、俺は、」
「あー!春日くんじゃん!なになに?春日くんも一緒にご飯食べる感じ?」
名乗る前に龍ヶ崎が飛び込んできた。
「あ、うん。そうなんだけど、その前に俺の名前、」
「僕的によろしくするのは全然良いんだけど~、」
また邪魔をされてしまった。
頼むからから自己紹介くらいさせてくれ。
心の中で、そうお願いした相手は今、話を遮ってきたもう一人のイケメンこと『
彼は秀也くんと部活が同じで仲が良く、よく一緒にいるところを見かける。
そして彼は続きを話し始めた。
「気になるのは平本ちゃんだよね~。もしかして、秀也狙い?」
「えっ、いや、私はその…。」
突然、図星を突かれしどろもどろになってしまう平本。
この後、気まずくなってしまうのも嫌なので頑張ってごまかしてほしい。
「私は春日井くんの、付き添いなの!」
「は?」
その応援もむなしく、彼女は失敗してしまう。
いや、ある意味成功なのかもしれない。
意外性のある話題にすり替えることができれば、平本が秀也くんを好きだという事実だけはごまかせる。
しかしその内容が悪すぎた。
「だから、その、春日井くんが龍ヶ崎さんと一緒にご飯食べたいって言うから!」
「えっ、じゃあ平本ちゃんが秀也を好きっていうより、春日井くんが綺羅ちゃんを好きってこと?」
皆の視線がこちらに集まる。
平本の方を見ると、「やべぇ、やっちまった。」みたいな顔をしていた。
「いや、あの…、ちが…。」
そう言いかけて、別に好きって訳じゃないけど、嫌いって訳でもないんだから、違うって否定するのもまずいような気がした。
それに、否定してしまったら、
「はぁ?お前みたいなのがあーしのこと好きっていうだけで気持ち悪いのに、違うってなに?なんであーしがフラれたみたいになってんの?ふざけてんの?あぁん?オラァ!」とか言われて殴られそう。だってギャルだし。
かなりバイアスのかかった思考でいると、ついに龍ヶ崎が口を開いた。
「え、春日くんって……。本当は春日井って名前だったの?!」
そこじゃなーーーい。
しかしこれはチャンス。
「そ、そう!俺、本当は春日井っていうんだ!!」
「そうなんだ!間違えちゃってごめんね!」
「いやもう、全然大丈夫だから!」
無理に明るく振る舞いどうにかごまかそうとしていると、
「もういいから、早くご飯食べよう。」と柏木が言ってくれたが、少しだけ機嫌が悪そうだった。お腹すいていたのかな?
そんなこんなで、ようやく地獄のお昼ご飯が始まった。
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