第9話 キラキラと犬。

 迷子かな。迷子じゃないかな。迷子だよ。



 迷子といっても、今は携帯電話というものがあり、それほど困ることでもなかった。


 そんな余裕な態度をとっていられたのも、携帯電話の状態を見るまでだった。


 うそ、だろ…。


 充電が切れている。

 ありきたりな状況ではあるものの、現実ではそうそう起きないようなことが続き、多少困惑してしまった。



 どうするか。近くの公衆電話を…。いや、そもそもお金を持ってきていない。


 そんな自問自答をしていると、一匹の犬が飛びついてきた。



「ワンワン!」


「うわっ、なんだこの犬!やめろやめろ、おい!!」


 完全にマウントをとられ、顔中をベロベロと舐められていた。これが美少女ならばご褒美なのだが、犬なのがなんとも。


「あ~、すみませーん!こら、やめなさい!」


 犬に続いて来た女の人が、そう言って犬を止めてくれたが、すみませんじゃすみませんよ。


「あーしのケンピがごめーわくおかけしました!」


 なんだ、ケンピって。

 てかこの声で、一人称があーしってまさか。


「あぁ、ケンピってのはこの子の名前でー、ほんとはケンタロウって言う……ん?あれ?あんたどっかで…?」


「龍ヶ崎……さん。」


 彼女は同じクラスの『龍ヶ崎りゅうがさき 綺羅きら』。学年一のギャルだ。

 もちろん会話をしたことはない。


「あっれー!やっぱりそうじゃん!あーしとおんなじクラスの!ね?えーっと…、名前わかんないや(笑)」


 そっか、わかんないか(笑)。



「まあなんでもいっか!太郎くん、マジごめんね~!許してちょ!」


 誰だよ太郎って。絶対許さんわ。


「あ…、はい。大丈夫です。」

 許さないなんて言えなかった。



「アハハ!敬語マジウケる!!てかあーしと喋るの初めてっしょ?」


「まぁ、うん。」


「だよねー!これからよろしくって感じだし?」


「あ、うん、よろしく。」


「よろしく~!てかはよ立ちなよ!」


 そう言って彼女は手を差し出してきた。



 ギャル、マジヤバい。

 異性とこんなに簡単に手を繋げれるものなのか。


 緊張で手汗が。しかし、こんな青春チャンスは滅多にない。ここは勇気を出していくべきか。



「てか自分で立てるっしょ!」

 彼女は手を引っ込めた。


 ホッとしている気持ちもあったが、それ以上に悔しがっている自分がいた。



 仕方なしに自力で立ち上がると彼女は、

「じゃ、あーしそろそろ行くから!太郎くん、また明日ね~!」と言い、走って行ってしまった。


 太郎ではない。そう言う暇もなかった。



 そして、ようやく落ち着くことができたが、落ち着いていられる状況ではなかったことを思い出した。

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