第二幕


 第二幕



 混濁していた意識が覚醒し、俺はゆっくりと眼を覚ました。仰向けに寝かされた状態の俺の視界に広がるのは真っ白な見知らぬ天井板と、その天井板に並んで固定された、ソケットの部分が黒ずんだ古びた蛍光灯。果たして自分の身に何が起きたのだろうかと記憶の海を掻き分けながら半身を起こそうとしたところで、俺は自分の右腕がギプスで固定されていて肘関節が動かせない事に気付くのと同時に、電極を突き刺されたかのような鋭い痛みが背中の中央にびりびりと走って悶絶する。

「痛てててて……」

 悶絶しつつも一通り痛みに耐えながら、俺は自分が結構しっかりとした造りの、広く清潔なベッドに寝かされている事にも気付いた。そしてそのベッドの脇に置かれたソファに腰掛けていた二人の男の内の一人が、悶絶する俺に日本語で尋ねる。

「大丈夫ですか?」

「大丈夫じゃ……ない……」

 男の問いにこちらも日本語で答えながら、俺はようやく少しばかり痛みに慣れて来たので、ぐるりと首を巡らせて周囲の状況を確認した。そこそこに広い静かで清潔な部屋に、俺が寝かされているベッドと革張りのソファ、それに冷蔵庫やエアコンなどの電化製品と並んで幾つかの名前も知らない電子医療機器や点滴スタンドが散見される事から、ここはどこかの医療施設の病室だと推測される。

 また前述したように、ベッドの脇に置かれた革張りのソファには二人の男が腰を下ろしていた。二人の内の一人はグレーのビジネススーツに身を包んで黒いセルフレームの眼鏡を掛け、髪をぴっちりと七三分けにしたいかにも役人然とした風貌の生真面目そうな若い男であり、先程日本語で問い掛けて来た事から察するに俺と同じ日本人なのだろう。

 そしてもう一人の中年の男も紺色のビジネススーツに身を包んでいたが、こちらは彫りの深い中東系の顔立ちと浅黒い肌、それに喉元を覆うほどの立派な髭を蓄えている事から推測するに、現地トルコ出身の人間に違いない。

「初めまして、加屋彩人かやさいとさん。私はイスタンブールの日本総領事館で一等書記官を務める、小林こばやしと言う者です。今回は災難でしたね」

 小林と名乗った黒いセルフレームの眼鏡の男がそう言いながら手を差し出して来たので、俺はベッドに横たわったまま彼と握手を交わした。

「それで、えっと、小林さん? ここは?」

 俺が尋ねると、小林書記官は答える。

「ここはイスタンブールの、アジバデム国際総合病院の特別病室です。喜んでください、加屋さん。あなたは特別にVIP待遇で、しかも無料でこの豪華な個室に入院する事が出来ているんですよ」

「はあ」

 たとえVIP待遇だとしても、自分の意に反して入院していると言う事実はあまり喜べない。

「それで加屋さん、気を失ったあなたは昨日この病院に担ぎ込まれたのですが、自分の身に何が起こったのか覚えていますか?」

「ええと……確か空港で爺さんとトイレから逃げ出して……それで背中を撃たれて……」

 俺は昨日の出来事を思い出そうと記憶の糸を必死で手繰るが、残念ながら、若干細部が曖昧だ。

「それだけ覚えておられれば、大丈夫でしょう。残りは、私の方から補足させていただきます」

 そう言って、小林書記官は詳細を解説し始める。

「昨日の午後、アタテュルク国際空港からトルコに入国されたあなたは、空港のターミナルビル内のトイレでテロ事件に巻き込まれました。テロ事件を起こしたのは、地元トルコのクルディスタン労働者党PKKのメンバーです。彼らの出身地であるクルド人居住区をトルコから独立させようと目論む、急進的な武闘派の政党であり、武装集団ですよ。そして加屋さん、あなたはそのクルディスタン労働者党PKKが政権与党との交渉の材料とするために誘拐しようとした男性の逃走を手助けし、これを身を挺して守り抜いたとして、その英雄的行為が今朝の新聞の一面で大々的に報道されると同時に国中で賞賛されています。事実この病院のロビーにも、あなたに取材を申し込もうとするマスコミ各社の記者が殺到していますからね。私も同じ日本人として、鼻が高いですよ」

「はあ」

 小林書記官は意気揚々と解説してくれるが、就職活動に失敗して親からも勘当されたこの俺が英雄的行為を国中から賞賛されていると言われても、まるで実感が涌かない。

「それで、俺の怪我の具合は? 背中がやけに痛いし、腕も痛いんだけど?」

「ああ、それでしたら、右腕は折れています。幸いにも単純骨折ですので、およそ一ヶ月から二ヶ月程度で完治するそうですよ。それと背中の痛みですが、こちらも運良く酷い打ち身だけで骨や内臓には損傷が無いそうですから、数日で痛みは引くだろうと診断されました。一応主治医からは痛み止めの錠剤が処方されていますので、後で飲んでおいてください」

「酷い打ち身ねえ……。カラシニコフで撃たれたにしては、軽傷過ぎないか?」

「ええ。これのおかげですね」

 そう言った小林書記官は、俺が普段から愛用していて、空港で銃撃された際にも背負っていた軍用バックパックを取り出した。そしてその中から、丸められた俺の革ジャンを取り出す。

「このジャンパーが防弾チョッキのガラス繊維と同じ効力を発揮して、銃弾の威力を緩和してくれたんです」

 手渡されたそれを拡げてみると、確かにその革ジャンの何箇所にも、カラシニコフ式自動小銃から射出された銃弾が貫通した痕跡と思われる穴がぽっかりと開いていた。どうやらぎゅうぎゅうに圧縮して丸めた状態で軍用バックパックの中に突っ込まれていたこの革ジャンを何度も貫通する内に、銃弾の推進力が徐々に減退されたらしい。

「そして最終的には、これが銃弾を止めていました」

 小林書記官がそう言いながら差し出して来た物は、俺が飛行機やバスなどでの移動中の暇潰し用として持ち歩いていた折り畳み式の携帯ゲーム機、具体的に言うと任天堂株式会社のニンテンドー3DS本体だった。そしてそのニンテンドー3DSの液晶画面の丁度ど真ん中に、7.62×39mmライフル弾の鉛色の弾頭が深々と突き刺さった状態で止まっている。つまり小林書記官によれば、これら革ジャンとニンテンドー3DSが防弾チョッキと同じ役割を果たしてくれた事によって、殺傷力の高いカラシニコフ式自動小銃の銃弾からこの俺の命を救ってくれたと言う事らしい。

「マジかよ……」

 俺は小林書記官から銃弾の突き刺さったニンテンドー3DSを受け取ると、それをためつすがめつ色々な角度から何度も眺めながら呟いた。昔、胸ポケットに入れておいたアップル社のiPodが銃弾を受け止めてくれたおかげで一命を取り留めた米軍兵士の逸話をネットのニュースサイトで読んだ事があるが、まさかこの俺がそれとほぼ同じ体験をするとは驚きである。兎にも角にも、ニンテンドー3DS様々だ。今はこの命の恩人と、熱い抱擁と接吻を交わそう。これが無ければ、俺は今頃背中から撃ち込まれた銃弾によって空港の床に血と臓物をぶちまけて、野良犬の様に無様に死んでいたのだ。

「ええと、それでですね」

 命の恩人であるニンテンドー3DSに口付けする俺に、小林書記官は言う。

「加屋さん、あなたが助けた男性ですが、これがなかなか大変な人物でしてね」

「ああ、そうだ。結局あの爺さんは、どこの誰だったんだ? 武装したテロ組織に命を狙われる程の人物なんだから、トルコでは相当の有名人なんだろう? 政治家? それとも、大御所の芸能人?」

 俺が尋ねると、それまで無言のままソファに座っていたもう一人のスーツの男、つまり髭面のトルコ人の男が立ち上がった。そして俺が寝ているベッドの脇に立つと、こちらに手を差し出しながら挨拶と自己紹介の言葉を英語でもって口にする。

「初めまして、加屋さん。私はハサン。ハサン・トュルナゴルと言う者でして、バジェオウル氏の第二秘書を務めております。本日は、多忙なバジェオウル氏の代理人としてこちらに馳せ参じました。以後、お見知り置きを」

「はあ」

 何だかよく分からないまま、俺はハサンと名乗った上品で丁寧な英語を話す、髭面のトルコ人と握手を交わした。パッと見た限りではそれほど体格が良い訳ではないが、握手を交わしてみれば、なかなか力強い手をした中年男性である。

「小林氏に代わりまして、ここから先は私から説明させていただきます。それでは早速ですが、まず初めに、感謝の言葉を述べさせてください。加屋さん、この度は我が主人であるバジェオウル氏の命をお救いいただきまして、誠にありがとうございました。氏に仕える全ての者の代表として、また私個人としましても、幾ら感謝の言葉を重ねても感謝し切れない程の謝意を表明させていただきます」

 そう言った秘書のハサンは、ベッドに横たわったままの俺に向かって深々と頭を下げてみせた。果たしてトルコでも謝意を表明する際には頭を下げる風習があるのか、それとも日本人である俺に合わせて慣れない頭を下げているのかは判然としないが、どちらにせよ自分よりも年長者に頭を下げられるのはなんだか面映い。

「ええと、つまりそのバジェオウル氏とやらが、あの爺さんの名前なんだな?」

 照れ笑いと共に俺が尋ねると、秘書のハサンは頷く。

「はい、その通りです。加屋さん、あなたが助けられたご老人こそ、我らが偉大な主人たるフェルハト・バジェオウル氏その人であります。昨日、外遊先のフランスから自家用機で家族と共に帰国された氏は、食後の習慣として便意の有無に関係無く手洗いに立ち寄られました。そしてその際に若干ながら警備が手薄になる事を、賊は事前に察知していたのでしょう。先程小林氏からも説明が為されました通り、その隙を突いて襲撃して来た賊、つまりクルド系武装組織によって氏は拉致されかけました。今回の一件を捜査しております警察によれば、姑息かつ卑劣にも賊は変装して女性用の手洗いに侵入し、そこから壁を爆破して隣の男性用の手洗いに進入して来たとの事です」

「ああ……」

 説明を受けた俺は、当時の事を思い出しながら得心した。言われてみれば俺が男子トイレに入る直前に、本来ならば女性が被るブルカで全身を覆って大きな荷物を持ったイスラーム教徒の一団が女子トイレに入っていったが、おそらくはあれが変装した武装集団だったのだろう。思い返してみればあの一団は、アジア人の女性にしては妙に背が高かったような気がしなくもない。

「それで、結局あの爺さんは何者なの? 無事?」

「はい、氏は無事です。あなたに助けていただいたおかげで、転倒した際に軽度の擦過傷を負った以外には全くの無傷で済みました。返す返すも、感謝の言葉もございません」

 ここで、秘書のハサンは一度姿勢を正す。

「それでは改めて、バジェオウル氏の素性と、私が氏から託された用件を説明させていただきます。まず初めに、我らが偉大な主人たるフェルハト・バジェオウル氏は、ここトルコでは知らない者が皆無と言っていいほどの大財閥を統べる名家の家長を務める人物である事をお見知り置きください。そしてそのバジェオウル一族は財界だけに留まらず、過去にも高名著名な政治家や宗教学者などを数多く輩出した事によりまして、祖国トルコを中心とした中東全域からヨーロッパに至るまでの広大な地域のあらゆる分野に多大な影響力を発揮しております」

「はあ」

 小林書記官に英雄的行為を国中から賞賛されていると言われた時と同様に、唐突に財閥がどうとか宗教学者がどうだとか言われても、やはり俺にはまるで実感が涌かない。

「そしてバジェオウル氏は、警察官でも軍人でもない上にまるで無関係な一介の外国人に過ぎないあなたが、職務上の義務ではなく純粋な正義感と友愛の精神から氏を救助されました事に大変な感銘を受けておられます事をご理解ください」

「なるほど」

 実感は涌かなかったが、何にせよ自分の行いが他人に感銘を与えたと言われれば悪い気はしないし、怪我をしてまでも人命救助に勤しんだ甲斐があると言うものだ。

「そこで加屋さん、あなたが退院されましたら是非ともバジェオウル家の屋敷に招待して個人的に感謝の祝宴を催したいとの氏の意向を伝えに、私は今日、こちらまで馳せ参じた次第であります。如何ですか? 主賓として、祝宴にご列席願えませんか?」

「祝宴か……」

 暇人の代表格とも言える無職のバックパッカーに過ぎないこの俺に、せっかくの誘いを断る理由は無い。

「それじゃあ、出席させてもらいますよ。別に急ぎの用事も無いし、祝宴ともなれば、何か美味しいご馳走が食べられるんでしょう? 世界三大料理の一つであるトルコ料理を堪能出来るとあれば、これを逃す手は無いしね」

「それはそれは、誠にありがとうございます。勿論、我々に用意出来得る限りの歓待の料理を用意させていただきます。きっとバジェオウル氏も、命の恩人との再会をお喜びになられるに違いありません」

 そう言った秘書のハサンは、再び深々と頭を下げてみせた。そして俺は病院のベッドに横たわったまま、祝宴で食べられるであろうご馳走に思いを馳せる。思わぬ怪我と入院によって帰国の予定は先延ばしになってしまったが、まあ、旅は道連れ世は情けと言うではないか。ここは一つ、バジェオウル氏とか言うあの爺さんと親睦を深め、旅の情緒に身を任せてみるのも悪くはない。安易な気持ちでそう考えた俺は、寝転んだベッドの上で一人ほくそ笑む。


   ●


 未だ骨折が完治していない右腕を病院から借りたアームホルダーで首から吊り、どうしようもない馬鹿か白痴の様にぽかんと大きく口を開けたまま、俺は呆然と立ち尽くしていた。そして自分の頬を試しにぎゅうとつねってみたが、予想通り普通に痛かったので、どうやらこれは夢ではないらしい。

 思えばほんの一時間ほど前に退院手続きを終えた際に、病院の正面玄関前まで迎えに来てくれた車が終ぞ見た事も無いような長大な車長のハマーリムジンだったあたりから、既に悪い予感はしていたのだ。そしてそのハマーリムジンに乗った俺が連れて来られたのが、俺の退院祝いが催されると事前に聞いていたバジェオウル氏とか言う爺さんの屋敷なのだが、これはもう屋敷と言う規模の建造物ではない。まさに『宮殿』と表現するのが正しいであろう規模の、想像を絶する程の広大な敷地の中央に建つ、豪奢の限りを極めた大邸宅である。

「うわあ……」

 そんなバジェオウル氏の宮殿の玄関ロビーでぽかんと呆けながら、俺は感嘆と驚愕の溜息を漏らした。鏡の様にぴかぴかに磨き上げられた床には高価そうな大理石が敷き詰められ、黄金で縁取られた真っ白な壁や天井にはいかにもイスラーム建築然とした色とりどりの幾何学模様が隙間無くびっしりと刻まれた、東京の俺の実家どころか小規模なアパートがすっぽりと納まっても未だ未だお釣りが来るであろう広さの荘厳な玄関ロビー。そんな玄関ロビーの常軌を逸した豪奢ぶりに気圧された俺は、今更ながらに自分がとんでもない人物を助けてしまった事をようやく理解し、実感し始める。

「驚かれましたか?」

 病院からこの宮殿まで俺を送り届けてくれた秘書のハサンが、鼻に掛けるほどではないものの、少しだけ自慢げに言った。しかし俺は彼の言葉に応える事もなく、只々ぽかんと呆けるばかりである。

「いやあ、これだけ見事な邸宅にお住まいとは、流石は高名なバジェオウル氏ですな。羨ましい限りです」

 俺に代わってそう言ったのは、隣で一緒に宮殿の内装を眺めながらも呆ける事無く済ました顔を崩さない、イスタンブールの日本総領事館に勤務する小林一等書記官。黒いセルフレームの眼鏡を掛けた彼は俺の要請を受け、今回のバジェオウル氏主宰の退院祝いに同行してもらったのだ。ちなみに同行してもらった理由は特に無いのだが、周囲に一人くらいは同郷の士である日本人が居なければ少しばかり不安で寂しかったと言うのが正直なところである。

「それでは加屋さん、小林さん、どうぞこちらへ。バジェオウル氏がお待ちです」

「あ、はい」

 秘書のハサンに促された俺と小林書記官の二人は、広壮な玄関ロビーを縦断して宮殿の奥へと足を向けた。移動する途中で宮殿の使用人らしき男女が数名ばかり音も無く近付いて来ると、俺が背負っていたバックパックなどの荷物を受け取って、そっとどこかに運んでくれる。こう言った客人に対する気配りと言うか配慮の行き届き具合がいかにも上流階級の人々が利用すべき施設然とし過ぎているためか、貧乏バックパッカーに過ぎない俺はなんだか居住まいが悪い。

「小林さん、あんた、こんな凄いお屋敷に来た事あんの?」

 俺は宮殿の廊下を歩きながら、隣で一緒に歩く小林書記官に小声で耳打ちした。

「ええ。仕事で総領事と共に色々な邸宅や施設に招かれた事がありますので、多少は慣れています。まあ、個人の邸宅でここまで見事な代物には、なかなかお眼に掛かれませんがね」

「ですよねえ」

 やはり外交官の一人である小林書記官にとっても、こんな宮殿に招かれるのは滅多に無い経験らしい。

「おお、加屋さん。良くぞいらしてくださいました」

 やがて案内された宮殿の奥の一室に足を踏み入れてみれば、トルコの民族衣装であるカフタンを身に纏った見覚えのある痩せた小柄な老人、つまりこの俺によって命を助けられたバジェオウル一族の家長たるフェルハト・バジェオウル氏が出迎えてくれた。

「ええと、どうも、バジェオウルさん。本日はお招きいただきまして、本当にありがとうございます」

「何を言いますか。お礼を言うべきなのは、命を救っていただいたこちらの方ですよ」

 出迎えてくれたフェルハト・バジェオウル氏と俺は堅い握手を交わし、更に熱い抱擁を交わし合う。こちらはこんな豪勢極まりない祝宴の場には全くそぐわない染みだらけの薄汚れたトレーナーとジーンズ姿だと言うのに、バジェオウル氏は全く気にした素振りも無く、無職のバックパッカーに過ぎない俺を有らん限りの力でもってギュッと抱き締めてくれた。

「本当に、この度は我が父をクルディスタン労働者党PKKの悪漢共から助けていただきまして、感謝の言葉もありません!」

「祖父を助けていただいた事を、心より感謝いたします!」

「あなたは大叔父様の命の恩人です! 素晴らしい!」

「■■■!■■■■!」

「■■■■!」

 どうやら宮殿内の小ホールと思われる祝宴会場に通された俺を、バジェオウル氏の親類縁者らしき小奇麗に着飾った老若男女が次々と出迎え、それぞれが堅い握手や熱い抱擁でもって俺を熱烈に歓迎してくれる。また同時に感謝感激の言葉でもって俺の行為を労ってくれるのだが、その半分くらいは英語ではなくトルコ語だったので、残念ながら俺には理解出来ない。

 まあ何にせよ、理由の如何にかかわらず歓迎されて悪い気がしないのは当然の事なので、俺は満面の笑顔でもって彼らの握手や抱擁に応えてみせた。またその間も、小ホールの一角に並んだ小規模ながらもちょっとしたオーケストラと言ってよい楽団が、BGM代わりに穏やかで耳に心地良いクラシック音楽を奏でる。まさか自分なんかのためにオーケストラの生演奏付きの祝宴を開催してくれるなどとはこれっぽっちも予想していなかった俺は、感動する事しきりだ。

 やがて挨拶と謝意の応酬が一段落した頃にぐるりと小ホール内を見渡してみれば、俺の退院祝いに参列してくれるらしいバジェオウル氏の親類縁者は、全部でおよそ三十人程度。彼らの性別や年齢は様々で、上は年長者らしきバジェオウル氏本人から、下は未だ幼稚園児くらいの小さな女の子までもが小ホール内に集合している。

 そしてそれら多くの参列者の中に、一人だけやけに目立つと言うか、俺の眼を引く女性が居た。それは他の女性達に比べると一回り以上も背が高くてスタイルの良い、腰は細くくびれながらも胸や尻は豊満で、浅黒い肌に長く艶やかな黒髪が特徴的な二十代後半くらいの若い女性。しかも彼女の顔立ちは端正ながらも扇情的と言うか、とにかく世の男ならばその容姿と物腰に心惹かれなければ、ホモセクシャルかインポテンツなんじゃないかと疑われるほどにまで魅力的である。

「さあさあ、どうぞこちらへ。今日はあなたが主賓なのですから、どうぞ中央の席にお座りください」

「あ、はい」

 俺は秘書のハサンに促されるまま、小ホールの中央に設置された、白い絹のテーブルクロスが敷かれた異様に横方向に細長い長大なテーブルの中央の座席に腰を下ろした。例えるならば俺の座っている位置は、レオナルド・ダ・ヴィンチの有名な絵画『最後の晩餐』の、ちょうどイエス・キリストが座っている位置にあたる。テーブルの上にはいかにも高価そうなぴかぴかに磨き上げられた銀食器や金の燭台、それに汚れ一つ無い白磁の皿が所狭しと並び、一介の庶民に過ぎない俺はその輝きに眩んで眼が痛い。すると他の参列者達も、主賓である俺に倣って各自の座席に順次腰を下ろし、後は祝宴の開始を静かに待つばかりだ。

「それではご列席の皆様、我が家族よ、今日は私の呼び掛けに応じて集まってくれた事を感謝する。また皆も知っての通り、先般この私を身を挺して救ってくれた命の恩人にして英雄、そしてはるばる遠い日本から来られた客人でもある加屋彩人氏を称えて、ここに彼の退院を祝う宴を開催したい。加屋氏への心からの感謝を込めて、乾杯!」

「乾杯!」

 俺の隣に座った、今日の祝宴の主催者であり一族の家長でもあるバジェオウル氏の音頭に合わせて、参列者達は掲げたシャンパングラスを一斉に打ち鳴らす。そしてテーブルの上に宮殿付きの給仕達が次々と料理を並べ始め、盛大な祝宴が始まった。

「さあ、加屋さん。今日はあなたが主賓なのですから、思う存分、遠慮無く楽しんで行ってください」

 バジェオウル氏はそう言って、シャンパングラスを傾けながら屈託無く笑う。テーブルの上に並べられた料理を見る限り、どうやら今日のメニューはトルコ料理とフランス料理の折衷料理と言った感じで、世界三大料理の内の二つまでもが同時に楽しめるとは贅沢極まりない。

「加屋さん、今日は右手が不自由なあなたに代わりまして、あたしがお手伝いさせていただきますね」

 そう言った声にふと振り返れば、バジェオウル氏が座っているのとは反対側の俺の隣の席に、例の背の高い豊満な美女が腰を下ろしていた。そして彼女は俺に寄り添うように身を寄せながら、見た目の年齢にはそぐわない、まるで子供の様な本当に愛らしい笑顔でもってにこりと微笑み掛けて来る。

「あ、はあ……」

 絶世の美女と評しても構わないような異性に突如として至近距離で接された俺は狼狽えてしまって、上手く喋れない。

「ああ、そうだ。あたしったら、自己紹介が未だでしたね。あたしは、アイシェ。フェルハトお爺様の孫の、アイシェ・バジェオウルです。加屋さん、あたしが今回の祝宴におけるあなたの身の回りの世話を任されておりますので、少しでも困った事があれば何なりとお申し付けください」

 アイシェと名乗った美女はそう言うと、再びにこりと微笑んだ。そしてそんな俺とアイシェの前のテーブル上に、給仕が運んで来た祝宴の料理が次々と並べられる。それはまさに、文字通り宮廷料理と表現するのが妥当な程の、見た事もないような豪勢極まる料理の数々だった。

「さあ、加屋さん。あたしがお手伝いいたしますから、心行くまで料理をお楽しみくださいね」

 流暢な王国英語クイーンズ・イングリッシュでそう言ったアイシェは骨折した右腕が満足に動かせない俺に代わって肉料理を切り分けてくれたり、海鮮料理の伊勢海老ロブスターの殻を剥いてくれたりムール貝の殻から身を剥がしてくれたりと、甲斐甲斐しく俺を介助してくれる。そして調子に乗った俺は彼女の言葉に甘え、遂にはフォークに刺した料理を直接口に運んでもらったりと、まるで過保護に育てられた我侭な子供の様にすっかりアイシェに頼り切ってしまった。つまりアイシェはそれだけ、絶世の美女でありながらも実の母や姉の様に気安く接し易い雰囲気を纏った、母性溢れる人物であったとも言える。

「美味しいですか、加屋さん?」

「ええ、実に美味しいです」

「それは良かった。もっともっと、沢山食べてくださいね? 今日はあなたの退院祝いなんですから」

 俺が料理を堪能して舌鼓を打ちながら嬉しそうに微笑むと、アイシェもまた心から嬉しそうに微笑み返してくれた。何と言うか、俺にも過去には数人の恋人が存在したが、これほどまでに一緒に居て心休まる女性とはこれまでの二十三年間の人生において終ぞ出会った事が無い。

「ところで、加屋さん」

「はい?」

 不意に、アイシェとは反対側の隣の席に座るバジェオウル氏が俺に尋ねる。

「あなたは既に、結婚しておられますかな?」

「? いえ、未だ独身です」

「それでは日本に残して来た、結婚を約束された恋人などは居られますかな?」

「いえ、居ませんが?」

 バジェオウル氏の質問の意図や真意はよく分からなかったが、とりあえず俺は正直に答えた。すると彼は「そうですか、そうですか」と何度か頷いてから、本題に入る。

「ならば加屋さん、そちらの我が孫娘のアイシェを、是非とも嫁に貰ってはくれませんかな?」

 そう言ったバジェオウル氏は、少しばかり意味深ににやりとほくそ笑んだ。彼の言葉に驚いた俺は飲み下そうとしていたスープを思わずぶっと噴き出してしまい、更にそれが気管にも入ってしまって、ごほごほと激しくせる。

「は、はあ? 嫁?」

 当然ながら、俺は頓狂な声を上げて聞き返した。しかし聞き返されたバジェオウル氏はと言えば、ほくそ笑みながらも涼しい顔である。

「ええ、そうです。あなたの嫁に、是非とも我が孫娘を貰ってやってはくれませんか? 見ての通りアイシェは器量良しですし、とても博学で心優しい子です。妻としても母としても、決してあなたを失望させるような事は無いと、この私が保障しましょう」

「ええー……」

 突然の申し出に、俺は困惑せざるを得ない。

「でも、その、本人の承諾も得ずにそんな大事な事を決定する訳には……」

「その点でしたら、何も問題はありません。アイシェもあなたとの結婚には前向きで、彼女の同意は得ておりますから」

 そう言ったバジェオウル氏の返答に俺は益々をもって困惑し、再び「ええー……」と絶句するばかりだ。そして本当に本人の承諾を得ているのかと反対側の席に座るアイシェを見遣れば、彼女は俺と視線を合わせながら顔を赤らめつつも愛おしそうに微笑み、バジェオウル氏の言葉が嘘ではない事を無言で証明する。どうやらバジェオウル氏の親類縁者を筆頭に、この場に居合わせた俺と小林書記官以外の人間全員が、俺とアイシェの結婚を渇望しているようだ。

「突然そんな事を言われてもなあ……」

 改めて、俺は逡巡する。はっきり言ってしまえば、アイシェは俺なんかには勿体無さ過ぎるほどの美人だ。背も高くて、スタイルも良い。具体的に言えば身長185cmの俺より少し小さいくらいだから180cm近い長身で、更に引き締まった腰は細いながらも胸や尻は豊満と言う、この上無く男好きする容姿の持ち主でもある。しかもこの短時間の祝宴の最中にも、右腕が不自由な俺の世話を嫌な顔一つせずに甲斐甲斐しく焼いてくれた彼女が、心優しい女性である事もまた疑いようの無い事実だ。

「どうされました、加屋さん? あたしに何か至らない点がございましたら、何なりとお申し付けください。必ずやその点を改善して、あなたの花嫁に相応しい人間になってご覧に入れますから」

 逡巡する俺の姿を見たアイシェはそう言って、不安げで寂しげな表情を見せる。それは自分の方に何か非があるのではないかと言う憂慮と懸念の表情であり、そんな顔を向けられてしまっては、こちらの方がいたたまれなくて仕方が無い。

「いや、そうじゃなくて……」

「それでは、何の問題が? あたしの事が、お嫌いですか?」

 俺の眼をジッと覗き込みながらそう言って問い掛けて来るアイシェの瞳には、うっすらと涙が浮かんでいた。

「そうじゃなくて、至らない点があるのは俺の方なんだってば!」

 アイシェの視線に耐え切れなくなった俺は、声高に叫ぶ。

「だってほら、見てくれよ! 俺はこんな汚いトレーナーに穴が開いたぼろぼろのジーンズを穿いた、無職の貧乏バックパッカーじゃないか! だから本来ならば、こんな立派な屋敷でこんな豪勢な料理を食べさせてもらうだけの資格も無い一介の庶民に過ぎないって事くらい、アイシェ、キミだって理解出来るだろう?」

 自分の身なりや出自のみすぼらしさを自虐的に謳い上げる俺の姿に、宮殿の小ホールに居合わせた祝宴の参列者全員が注目していた。そして俺は観衆の耳目を一身に集めながら、尚も叫ぶ。

「そんな貧乏庶民に過ぎない俺と、財閥のご令嬢であるキミが結婚だって? こんな表現は時代錯誤かもしれないけれど、これこそまさに、身分違いの恋ってやつだ! 俺なんかと結婚しても、キミは何も得しないどころか、人生を棒に振るだけに決まってる! だからアイシェ、キミとは結婚出来ない!」

 俺は一通りの演説を大声でもってち終えると、自分自身の不甲斐無さに落胆して、押し黙ってしまった。バジェオウル氏の親類縁者である祝宴の参列者達も皆、少しばかり呼吸を荒げている俺にジッと注目したまま押し黙り、いつの間にかオーケストラの指揮者も手を止めて演奏も中断されてしまっている。豪奢を極めた宮殿の小ホールはしんと水を打ったかのような静寂に包まれ、まるで時間が止まってしまったかのように誰も動かない。

 だが不意に、ゆっくりと手を打ち鳴らすぱちぱちと言う音が俺の耳に届いた。見れば隣に座るバジェオウル氏が真剣な眼差しでもってこちらを見据えながら、俺を褒め称えるかのように拍手している。

「素晴らしい。それでこそ、この私がアイシェの夫として見込んだ男だ」

 どうやら期せずして、俺の自虐的な演説は彼に感銘を与えてしまったらしい。

「決して利己的にならず、絶えず他者を思いやる慈悲と慈愛の心。増長して驕り高ぶる事の無い、謙遜を美徳とする価値観。そして何よりも、危険を顧みずにこの私を身を挺してテロリストどもから守り抜いた自己犠牲と正義の精神こそ、我が孫娘の生涯の伴侶として相応しい。益々をもって気に入った。やはり加屋さん、是非ともアイシェの夫として、あなたを我が一族に迎え入れたい」

「ええー……」

 俺の困惑ぶりは、もはや頂点に達しようとしていた。

「でも俺、本当に只の無職の貧乏バックパッカーに過ぎないんですからね? 大学はギリギリでなんとか卒業出来たけれど就職には失敗したし、それでニートになったら両親からも勘当されて親子の縁を切られて、こうして外国でテロ事件に巻き込まれても実家から心配しているって電話の一本も掛かって来ない親不孝者なんですよ? そんな家も金も職も無い俺が、こんな良家の娘さんを嫁に貰ったって養える筈が無い事くらい、分かるでしょう?」

「その点なら、心配なさらなくてもよろしい」

 俺の釈明と疑問に対して、バジェオウル氏は堂々と胸を張りながら提案する。

「バジェオウル財閥は、コチ財閥やサバンジュ財閥と言った大財閥にも引けを取らない、トルコ屈指の大財閥であります。ですから加屋さん、あなたがそのバジェオウル財閥を統べる我が一族の一員となってくだされば、その折には財閥内にそれ相応のポストをご用意しましょう。それにあなたは、何と言っても私の命の恩人。そんな命の恩人に報いるためにも、私はあなたの生活全てを生涯に渡って保障する義務と責任があります。ですからあなたは先程、自分には家も金も職も無いと仰りましたが、何も心配する必要はございません。アイシェと結婚してくだされば、それら全てを差し上げます。いかがですか? これでもまだ、アイシェとの結婚を渋られますか?」

「……マジ?」

「ええ、私は本気です。既にイスタンブール郊外の私の別荘の一つをあなたとアイシェの新居として改装させておりますし、部下には日本の企業との取引を想定した新たな部署の創設を指示しました。加屋さん、あなたにはまずトルコ語を習得していただくなどの準備期間が必要でしょうが、その後はその部署で顧問を務めていただきましょう。これで、アイシェと結婚しても後顧の憂いは無い筈です」

「国際結婚か……」

 アイシェとは結婚出来ないと言う俺の決意は、いきおい揺るがざるを得ない。それほどにまでも、バジェオウル氏の提案は魅力的だ。何せ、俺の生活の全てを生涯に渡って保障してくれるとまで言っているし、彼の資産の規模からして、その言葉に嘘偽りは無いのだろう。就職に失敗して所持金も底を尽きかけている、明日をも知れないホームレス同然のニートにとって、これ以上に魅力的な提案が他に存在するだろうか。

「うーん……」

 思い悩み、首を傾げながら考えあぐねる俺に、バジェオウル氏がふと思い出したかのように尋ねる。

「時に加屋さん。あなたが信仰する宗教は何ですかな?」

「宗教? ……えっと、仏教と神道ですが?」

 突然妙な事を聞かれて少し呆けたが、俺は正直に答えた。

「仏教とシントー? 信仰する宗教が二つあるのですか?」

「ああ、えっと、説明するのが難しいけど仏教と神道はどちらも多神教で、同時に信仰する事が可能なんです」

「ほう?」

 自身の顎に生えた髭を撫で擦りながら、バジェオウル氏は驚く。まあ、イスラーム教やキリスト教などの一神教を熱心に信仰する人達から見たら、複数の宗教を同時に信仰出来るなどと言うのは相当に奇妙な風習に違いない。

「えっと、それで、俺の宗教が何か?」

「いやなに、イスラーム法に則り、基本的にはムスリムは同じムスリムとしか結婚出来ません。キリスト教徒やユダヤ教徒、それにゾロアスター教徒やサービア教徒と言った、いわゆる『啓典の民』であれば例外として結婚が許されるのですが……。残念ながら偶像を崇拝する多神教である仏教と、そのシントーと言う宗教の信者では啓典の民とは認められませんので、あなたがアイシェと結婚するにはイスラームに改宗していただく必要があります。よろしいですかな?」

「イスラームへの改宗ねえ……」

 予想もしていなかったバジェオウル氏の要求に、俺は益々をもって首を傾げながら、尚も考えあぐねる。たった今しがた、一応は自分を仏教と神道の信者だとうそぶいてみせた俺だが、勿論そんなに熱心で敬虔な信徒と言う訳ではない。せいぜい年に一度ずつの盆暮れ正月の墓参りと初詣のために寺と神社に足を運ぶくらいで、それ以外には特にこれと言った寄進も喜捨もしない、信心深さの欠片も無い今時の若者だ。

「……それ以外に、条件は無いんですよね?」

 俺が尋ねると、バジェオウル氏は答える。

「ええ、ございません。イスラームに改宗してアイシェと結婚していただければ、その後のあなたの生活は生涯に渡って保障いたしましょう」

 改宗して結婚するだけでニートの俺が財閥一家の一員として迎え入れられると言うのだから、損得勘定から言えば、これ以上魅力的な提案は無い。しかも結婚相手は見目麗しく、絶世の美女と評しても過言ではない程の容姿を誇るアイシェとくれば、一体この俺に何を迷う事があると言うのだろうか。

「なあ、アイシェ」

「はい、何でしょう?」

 隣に座るアイシェに、俺は改めて尋ねる。

「キミはいいのか? 俺みたいな、どこの馬の骨とも知れない外国人なんかと結婚する事になっても」

「はい。あなたは敬愛するフェルハトお爺様の命の恩人であり、あたしの夫としてお爺様が見込んだ男性ですもの。これまでもお爺様の眼に狂いはありませんでしたし、これからも無いものと確信しています。それに、あたしの事をこんなにまでも思い遣ってくれるあなたが、悪い人間な筈がありません。きっとあたしの事を幸せにしてくれると、心から信じています」

 そう言ったアイシェの澄み切った瞳には一点の曇りも無く、心から俺を信頼しているように見受けられた。

「信じています、か……。女にそこまで言われちゃったら、男として断る訳にも行かないよなあ」

 俺はそう言って、アイシェに向かってそっと手を差し出す。すると彼女は無言のまま、微笑みながら俺の手を取った。

「どうやら、決まったようですな」

 俺とアイシェが手を取り合ったのを確認したバジェオウル氏が、手にしたシャンパングラスを掲げ直す。

「我が命の恩人たる加屋彩人氏と我が孫娘アイシェとの婚約に、乾杯!」

「乾杯!」

 バジェオウル氏の音頭でもって、宮殿の小ホールに集まった彼の親類縁者である参列者全員が再びシャンパングラスを打ち鳴らし合った。その一方で俺は何だかよく分からないまま、アイシェと婚約する事になってしまった自分の運命の不可思議さに困惑しつつも、彼女の手の甲にそっと優しく口付けする。とにかく今は、絶世の美女と生涯に渡る生活の安定と安寧を手に入れた自分を褒め称えたい。

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