小説


おれは小説を手に取った

数年ぶりに

それは中学の時の読書感想文、以来だった

あの時は………

そうだ思い出した

たしか夏目漱石の『坊ちゃん』で書いたんだった

意味がさっぱりわからなかった

シャツが喋ったりしてたな

あとがきを中学生の言葉に置き換えてなんとか枚数を埋めることに成功したんだ

よくあるやり方

その翌年も坊ちゃんで書いて出した

担任が変わったから大丈夫だと思ったんだ

それ以来だから

何年ぶりだろう?

とにかく

おれは再び小説を手に取ったのだった

さてと………

ここには一体どのような内容が書かれているんだろうな

おれはわくわくしながらページをめくった

めくる

というのはいやらしくてなかなかおれ好みな気がした

だがすぐに嫌気がさした

最初のページだ

風景描写が長いのだ

こんなの漫画なら1コマで済ませているところだ

ったく

おれはビールを飲み呟いた

「スパークが足りねえよ、小説ってやつはよお」

ようやく人間が出てきたと思ったら

今度はなんにも喋らねえ

怪しげな呪文のようなものがこいつの頭の中をぐるぐると渦巻いている

(ビョーキだ)

おれは思った

そしてもう二度と小説を開くことはないだろうと思いページを閉じた


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