第506話 そういえば
――いや、確かに私に外出の自由はないんだけれど。
だがそれはあくまで「後宮の外へ出る自由」であり、
けれどリフィの表情を見ていると、本気で心配しているようである。
どうやらリフィは、今の
「やだなぁリフィさん、なにを言うかと思えば。
まさかそんな箱入り娘じゃあるまいし!」
今の言葉を朗らかに笑い飛ばした雨妹だが、リフィはなおも心配顔であった。
――リフィさんって、私のことをなんだと思っているんだろう?
しかしよくよく思い返せば、雨妹とてリフィに自分の身の上を話した記憶がない。
なのでリフィは雨妹のことを「昔から
雨妹はとりあえず通行の邪魔にならないように道の端に寄ってから、リフィの心配を消してやることにした。
「私はつい一年くらい前までは、辺境で生活していたんです。
辺境だと市場なんて、苦労して山を下って麓までいかないとないんですから。
だから子どもが行けるものじゃあなくて、宮女になるために都に向かう道中で、初めて市場を見たくらいです」
「え……?」
雨妹がざっと説明すると、リフィは驚いたようにポカンとしているが、周囲を憚るように声をひそめて言ってくる。
「宮女とはなに? 青い目のあなたは皇族でしょう?」
今の話でリフィがまず気になったのはそこらしい。
もしくは宮女という立場を上手く飲み込めず、理解できる情報のみを材料にして考えたのかだ。
この国で青い目は皇族であるというのは有名な話なので、雨妹が友仁の近くにいるのは、下位の皇族が上位の皇族に従っている図だとも見えるだろう。
そんなリフィに、雨妹は「いえいえ」と首を横に振る。
「私は確かにこんな青い目ですけれど、正真正銘の庶民ですよ。
今回、訳あって特別に友仁殿下のお側にいますが、本来は下っ端働きの宮女ですって。
ねえ立勇様?」
「そうだな、見間違えようもなく掃除係だ」
そうカラリと言う雨妹に、立勇も重々しく頷く。
「あ、立勇様って……」
そこでリフィは、雨妹が立勇を敬って話していることに気付いたようだ。
これまでだってずっとこうやって会話していたのだが、リフィにとって不自由なく話せるとはいえ異国の言葉であり、言葉の違いでの上下関係を察するにはまだ難しいのかもしれない。
そして、リフィが恐る恐るというようにさらに問う。
「雨妹は、掃除が仕事なの?」
「そうですよ、毎日広い後宮を大勢でお掃除しています。
天職です!」
雨妹が胸を張って告げる。
「お前程掃除係を満喫している者は、そうそうおるまいよ」
立勇もそう言って認めるくらいなので、まさに天職なのだ。
実際、今回のように医療知識を求められる仕事だって、人助けができていいものだとは思うが、掃除だって楽しい仕事だ。
自分の手でその場所がきれいになっていくのは清々しいし、そのついでにあちらこちらで色々な人間模様を覗き見するのもワクワクする。
そんな雨妹に対して、リフィはひたすらに戸惑っており、しばし黙して考え込んだ末に口を開く。
「雨妹は、不公平だと思わないの?」
言われた雨妹は、目を瞬かせる。
「不公平、ですか?」
首を捻る雨妹に、リフィが重ねて言う。
「同じ青い目なのに、どうして皇子たちと私は違うのかと、落ち込まないの?」
リフィの言葉は恐らく、沈や友仁と比べてということなのだろう。
そうした不公平であれば、雨妹だって大いに思うところがある。
「それはもちろん思いますとも。
同じ青い目であっても、公主に生まれなくて良かったと日々感謝しています。
不公平大いに結構ですね!」
「はい?」
雨妹の心からの言葉に、リフィは目を丸くした。
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