第505話 ちょっと休憩してからの

こうして、大いに買い物を楽しんだ雨妹ユイメイたちは、あちらこちらをウロウロして疲れてきたので、休憩することにした。

 いい感じの木陰に卓と椅子を用意している奶茶の露店があり、雨妹はその椅子に座って歩き疲れた足を労わる。

 店側もこうした休憩客を見込んで椅子と卓を出しているのだろう。

 立勇リーヨンは雨妹の正面に座り、ホッと息を吐いている。

 一応はお目付け役である立勇なので、市場のような人が多い場所は気を張ってしまい疲れるのだろう。

 だが、市場見物は外せなかった雨妹は、立勇を労わる気持ちはあれど、「申し訳ない」などの後悔などはしないのだ。


「どうぞ、ここの奶茶も美味しいんですよ」


そんな雨妹たちに、リフィが露店で買った奶茶を持ってきてくれた。


「ありがとうございます!」

「ありがたい」


雨妹と立勇は、リフィから奶茶がなみなみと入った木椀を受け取る。

 この奶茶の他にも、以前から興味のあった豪猪ハオヂュ――ヤマアラシの串焼きを売っている露店も見つけてしまったので、当然のように即買いしてしまい、今卓の上で食べられる瞬間を待っている。

 雨妹はまず奶茶の木椀を両手で持ち、ゴクゴクと飲む。

 奶茶は井戸水で冷やされており、歩いて火照った身体を冷やしてくれる。

 味はリフィが淹れてくれるものの方が美味しいとは思うが、これはこれで、買い物で疲れた身体に染み渡る美味しさだ。


「はぁ~、こうして飲む奶茶も美味しい~♪」


木椀という豪快な杯であるのも、また独特の雰囲気があっていいではないか。

 立勇も奶茶を美味しそうに飲んでいる。


「淹れる人で味が変わるのも、奶茶の奥深さです」


リフィも木椀の奶茶を、こちらは上品な持ち方で飲みつつ、そのように述べた。

 雨妹は次に、お待ちかねの豪猪の串焼きに手を伸ばす。

 串焼きは豪猪の色々な部位が混ぜこぜに刺さっており、これは切り捨てられた肉を集めているもので、だから安価に提供できるのだと店主が言っていた。

 雨妹がはむっと頬張れば、まずは皮の部分が口に入る。

 前世の焼き鳥でもそうだったが、この皮のブツブツが苦手という人が一定数いるものの、雨妹は平気な質である。

 次の肉は胸だろうか? 鶏肉よりも硬いが、独特の味わいだ。


「ん、ちょっと硬いお肉だけれど、美味しいですね」

「十分に食べられる肉だ」


満足顔で串焼きを頬張る雨妹の正面で、立勇も黙々と食べるので、どうやら口に合ったらしい。

 立勇は近衛なので口が肥えているのだろうが、兵士として干し肉などの兵糧飯にも慣れているので、「美味しい」の幅が案外広い人だ。

 こうして雨妹が豪猪の串焼きをはむはむしていると、リフィが告げる。


「ふふ、あのお店は『当たり』のようですね。

 豪猪は処理が悪いと臭いですから」


なるほど、では当たり豪猪に出会えたことに感謝である。



休憩した後も、雨妹は市場を隅から隅まで見て回った。

 その結果、邸に戻る雨妹の腕には、一抱えもある買い物荷物がある。


「はぁ~、買った買ったぁ」


買い物荷物を抱えた雨妹は、達成感のある疲労に浸っていた。

 ちなみに、この荷物には立勇の買い物荷物も含まれている。

 剣を持つために手を空けておきたい立勇のために、彼の荷物を引き受けたのだ。


「市場って、いつ来ても楽しいですね~♪」

「お前に市場を歩かせると、気が休まらぬ」


土産をかかえてホクホク顔である雨妹に、背後を歩く立勇から小言が来る。


「むぅ、市場で買い物なんてそうそうできないし、自然と気分が上がってしまうんですぅ!」


それに雨妹が頬を膨らませて反論するのに、立勇も「やれやれ」という顔になっている。

 そんな雨妹たちのやり取りを、リフィが迷うような視線を向けているかと思えば。


「雨妹は、都では外出の自由すらもない生活なのですか?」


このように、気を遣うように問うてきた。


「へっ!?」


雨妹は驚きのあまり、足を止めてしまう。

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