第500話 宜という国の、本当のところ
ボルカがさらに述べる。
「今回の宜もどうせ、丹の利権をめぐっての商人と王家の争いだろうさ。
それに姫様を巻き込むなんて、酷ぇ話よ。
だいたい、丹がなくなることを前提に話をするのも気分が悪い!
そんな男とずっと顔を突き合わせていたんだ。
そりゃあ姫様だって主殿のことを、今まで会ったどの男よりもいい男だと思うだろう?」
「思うでしょうね!」
ボルカに熱弁され、
雨妹としては、沈だってアレな性格をしていると思うが、比較対象が酷いと不思議とマシな男に見えるという現象である。
それにしてもここへ来て、リフィの恋する乙女路線が復活してきたことで、状況がまたややこしくなった。
――これは、持ち帰って相談だな。
それにボルカの話を聞いていると、宜という国についての印象がだいぶ変わってきた。
宜とはひょっとして「豊かな大国」ではないのかもしれない。
だがなにはともあれ、今はリフィを心配するボルカを安心させてやりたいと、雨妹は思う。
「ボルカさん、こちらがそんなまどろっこしいことを考えずとも、リフィさんにその気があれば、きっと立ち直れますよ」
「そうだといいなぁ」
雨妹がニコリと笑って告げると、ボルカはそう弱々しく零すのだった。
ボルカとそんなやり取りをした後、雨妹は台所の外で待っていた
「もしかして、宜とは元は貧しい国なのですか?」
顔を見るなり言う雨妹に、立勇が眉を上げてみせる。
「唐突な質問だな」
確かに、立勇としては前置きもなく言われても、意味不明であろう。
「実はですね……」
雨妹は
「というわけで、リフィさんに協力していたのはボルカさんでした」
雨妹の話した内容に、立勇が「ふむ」と考える仕草をする。
「その者は、元々がこの邸付きの料理人であったか。
邸の造りに詳しいのも道理だな。
それになるほど、貴重な地元の意見だ」
立勇にとっても重要な話であったようだ。
インターネットでなんでも検索して知れた前世と違い、ここでは他国の情報は人の口伝いに聞き知るしかない。
手持ちの情報を補完するためのそうした口伝情報は、いくらあってもいいだろう。
――情報を集めるお仕事の人って、大変だよね。
今こうして他国と接する土地を訪れて、雨妹は余計にそう感じる。
どれだけ確実な情報を得るかは、どれだけ多くの人から話を聞いたかにかかっているのだ。
そしてこうした確実な情報を得るために、呂のような職業が必要なのだろう。
まあそのことは、今はおいておくとして。
「それで、宜は自国の売り物がないから、金を得るために『兵士』なんていう人身売買まがいのことを始めたのかな、と思いまして」
雨妹の持論に、立勇が「鋭いな」と返してきた。
「宜は昔から鉱山からとれる鉄で作る武器が売りであったが、鉱山とはいつか掘り尽くされてしまうのは、自然の成り行きだ」
宜の鉱山からの産出量などは極秘事項だとして表に出ないが、規模や過去の事例から推定して、そろそろ掘り尽くしてもおかしくはない、という話は言われているのだという。
しかし鉱山がなくなれば、宜は金を稼ぐ手段がない。
だからといって、宜の国土のほとんどが農業には向かない土地なので、農業への転換は容易にはできないらしいのだ。
「ならばと、自らが生きるために非道な商売に踏み切ったのだと、想像はできる」
「ふぅむ」
立勇の意見に、雨妹は考え込む。
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