第499話 丹と宜の関係性

「さぁな?」


しかし、これに答えるボルカも首を捻る。


「俺だって、姫様のご本心はわからねぇさ。だが主殿をお好きだとは思うぞ?

どの意味の好きかはおいておくとして、だ」


そう述べたボルカ曰く、リフィは丹の城での生活の中で、誰かの邪魔をしない生活を強いられていた。

 それが今の生活を見ていると、邸の主である沈はリフィの行動を尊重しているように見えるのだという。


「姫様だって、その優しさが心に響くだろうさ」

「まあ、そうかもしれませんねぇ」


しみじみと告げるボルカに、雨妹ユイメイは相槌を打ちつつも、ついで話のように聞いてみる。


「それなら、かつての婚約者としての宜での生活とは、どんな風だったのですかね?」


ジャヤンタの一般的な評価に繋がる問いであった。


「宜なぁ」


これにボルカが唸る。


「姫様はあそこでも窮屈だったと思うぞ?

 なにせ俺ら丹国人にとって、宜とは偉ぶるばかりの戦馬鹿だ」


ボルカの正直な言葉に、雨妹は「ふむ」と思案する。


「王太子殿下は、すごく人気者だと聞いたのですが」


そんな雨妹の意見に、ボルカがため息を吐く。


「宜の王太子殿下は、宜の男たちの理想の男像に当て嵌まると言う意味では、いい男なのだろうがな」


ボルカが言うには、宜のいい男とは軍人で腕っぷしが強く、より多く奴隷を所有している男のことだという。

 軍人は宜で一番尊ばれる職業だから、地位と金があるということで、その最高峰が王太子だ。


 ――宜には傭兵とは別に、奴隷もいるのか。


 崔のように犯罪奴隷なのか、もしくは傭兵と奴隷は同じ意味合いなのか、そこはボルカの言葉ではわからない。


「だがその理想の男像は、丹では当てはまらねぇ。

 丹では牛や山羊を多く持っている男が、いい男だ。

 だから姫様は牛も山羊も持っていない宜の王太子に、最初からご不満だった」

「お国の文化の違いですね」


ボルカの言い分に、雨妹も大いに納得である。

 リフィはあれだけ奶茶を美味しく淹れるのだから、牛や山羊を愛していそうだ。

 だがそうなると、沈の話にあった「リフィが豊かな宜での生活に溺れた」というような内容も、いささか怪しく思える。

 こうして隣接しながら真逆の価値観を持つ宜と丹であるが、ここで雨妹は当然のことが気になった。


「王太子殿下がそんな理想の男なら、国内でだって人気者で、嫁になりたい女性だってわんさかいたでしょうにね」


いくら飯の種である戦を仕込むためとはいえ、ジャヤンタの方は当時に結婚を意識した好いた相手はいなかったのだろうか?

 もしいたのならば、それを排して丹の姫を娶らなければならないわけで、リフィに優しくできない気持ちになるかもしれない。

 この雨妹の考えに、ボルカは「そりゃ、仕方ねぇや」と言う。


「あちらの殿下に好いた女がいたとしても、丹から食い物を貰わねぇと、宜国人は生きていけないんだ。

 なにがなんでも丹を引き込まねぇと、人気もなにもありゃしねぇってもんさ。

 好きだの惚れただのと言っている場合じゃあない」

「そうなんですか?」


目を丸くする雨妹を見て、ボルカが眉間に皺を寄せる。


「丹なら、二言目には出てくる文句さ。『誰の小麦と乳で飯を食っているんだ』ってな。

 あの国は鉄やらの鉱山はあるが、農地はほぼねぇ。

 そしてその鉱山も枯れかかっているっていう噂だぞ?」


 ――え、そういう意味でも政略結婚だったの!?


 語られた新事実に、雨妹は驚く。

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