第492話 言葉の向こうの真実
「お疲れのご様子ですね」
部屋で待っていた
その間、今度は
なので雨妹は立勇と胡安に、ジャヤンタとの間に起きた出来事を報告した。
「宜の希望の星と聞こえた王太子だったが、とんだ我が儘坊やでがっかりさ」
ということは、胡安も同意であるのだろうが、しばし考えた末にこうも述べた。
「明様の仰ること、私にはわかるような気がします」
「どういうこと?」
胡安の言葉に、お茶をフウフウしていた
これに胡安が「なんと言いましょうか」と思案しながら口を開く。
「軍人という職業を傍から眺めている文官という立場だからこそ、理解できると言いましょうか。
私もジャヤンタ殿下の噂は聞いたことがあります。
国民から人気があり、商人連合の言いなりである議会を変えるのはこの者しかいない、と言われていたとか」
そんなジャヤンタの側に侍ることができるのは選ばれた強者のみであり、自身が弱者や病人に微笑みかける行為は、明確に「見下し」だという自覚があったのだろう、と胡安は語る。
「病人、怪我人、弱者――以前のジャヤンタ殿下はそうした者らに憐みを与えつつ、己の力にならぬと遠ざけていたのでしょうね。
これは軍人で若くして出世した者に、ありがちな傾向です。
そして今、その行為を返されることを異常に恐れている」
「なるほど、それで『因果が返る』ですか」
――これに気付いた明の心の内は複雑だろうなぁ。
明は皇帝の側近として戦場を駆け巡り戦功を上げ、その後酒に溺れて酔っ払いのダメ大人になり下がるという、極端な人生をこれまで送っている。
きっと飲んだくれ時代には、かつての同僚からの心無い悪意に晒されていたのだろう。
なので頂点に立つ者と底辺を這いずる者の視点、両方を持ち合わせているのだ。
言い換えれば、雨妹の母に出会って恋心を捨てた末に飲んだくれていなかったら、ジャヤンタ側にいたかもしれない人なのである。
一方、胡安の意見を黙って聞いていた立勇が口を開いた。
「かつてはあのジャヤンタ殿下を、相当な自信家なのだろうとは見ていた。
それに民に『かの人こそが国を変える』と思わせるということは、それだけ当人も『己にはできる、むしろ己にしかできぬ』と考えていたということに他ならない」
立勇の意見もなるほどと頷ける。
つまりジャヤンタは自分が他者に指示することに慣れてはいても、自分が指示されることには耐性がないのだ。
容姿が良くて軍人としての功績もそこそこあって、民の間で人気者だったのなら、周囲からなにかと持ち上げられる立場であったことだろう。
――そりゃあ、俺様な性格になるかぁ。
それに加えて、雨妹には気になることがあった。
「宜では、もしかして女性の地位が低いのでしょうか?」
この疑問に答えたのは胡安である。
「宜は戦商売で成り立っている国で、戦場とは主に力自慢の男が力を振るう場所だ。
なので逞しい男がもてはやされるお国柄であるな」
「ふむ、筋肉信者だらけってことですね」
「フッ、筋肉信者……!」
雨妹の表現が可笑しかったのか、お茶のおかわりを勝手に淹れていた胡霜が噴き出し、中身を零しそうになるのを慌てていた。
「では、丹は?」
次いで雨妹は問うのに、胡安は眉をくっと上げつつも答えてくれた。
「丹は農業と酪農で暮らす民であるからな、宜のように『筋肉信者』とまではいかぬだろう」
「農業とか酪農って、老若男女が協力しないとやっていけない産業ですものね」
胡安からの説明を聞いて、雨妹は「ふむふむ」と考える。
そんな筋肉信者だらけの宜に、丹の姫が連れて来られたとしたらどうなるだろう?
そして、その姫がそれなりに優秀だとしたら?
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