第475話 お茶の時間になりました

ところで、ここでふと雨妹ユイメイは気になったことがある。


「そういえば、ジャヤンタ様の守りは、あの通路にいた兵士の人だけなのですね」


仕方のないこととはいえ、王太子の守りとしては心細いなぁと、雨妹が考えていると、扉の側に立つ立勇リーヨンから「そんなわけがあるか」と呆れられた。


「密かに見張りをつけているに決まっているだろう」


そう述べた立勇曰く、あくまでこちらはジャヤンタをこっそり匿っているので、表立って警護するのは「重要人物が隠れていますよ!」と宣伝するようなものだ。

 なので表の警護役である兵士は動かせないのだと、立勇が説明する。


「あれ、じゃあひょっとしてあの通路を通せんぼしていた人って、兵士じゃあないとか?」


雨妹の指摘に、立勇が頷く。


「ああ、あれは影だ」


なるほど、リュ以外にもそうした人がそれなりに揃っていたようだ。

 皇族の身の安全は、目に見える兵士の数を大勢揃えるよりも、そうした隠れた警護役をどれだけ揃えられるかにかかっているのだろうと、雨妹はつくづく思い知らされる。

 ところで、そんなこんなをしていたら、日はとうに空の真ん中からやや傾いてきていた。

 雨妹にとっては、昼食時を大きく過ぎてしまい、高貴な方々には午後のお茶の時間が遅れた頃だ。

 昼食時と気付いてしまえば、雨妹はとたんにお腹が減ってきてしまい、自然とお腹をさすさすしていると。


 コンコン!


 部屋の扉が外から叩かれたので、立勇が扉を微かに開けてあちら側を窺うと、扉の外を守っていたミンから小声で何事かを聞かされ、扉を閉めると友仁に向き直る。


「リフィ殿がお待ちだそうです」

「ああ、そういえばそうでしたね」


立勇が告げた内容に、胡安フー・アンが「思い出した」というそぶりを見せる。

 そういえば友仁ユレンは、奶茶を淹れてもらう約束をしていたのだったか。

 リフィはその約束を守って離宮にやってきたのだろうが、ジャヤンタに会った直後にリフィが来るとは、なんとも奇妙な頃合いだ。


 ――リフィさん、朝には酷い顔色だったけれど。


 あれから倒れでもしていないだろうか?

 それとも雨妹のように昼寝をして休息を取ったのか? などとそのあたりが少々気になるところだ。

 一方で友仁は、純粋にリフィが淹れてくれる奶茶が楽しみなのだろう、パアッと表情を明るくした。


「雨妹、一緒に奶茶をご馳走になろうよ」

「ぜひ、ご一緒したいです!」


この友仁からの誘いに、雨妹は即答を返す。


 ――リフィさんの奶茶、美味しいもんね!


 美味しいものを逃す手などない雨妹なのだった。

 もちろん、リフィからの情報収集もちゃんとやるつもりだけれども。



というわけで、リフィが待つ離宮の一室へ友仁と共に向かった。

 相手がシェンではなく、リフィ一人に会うのにぞろぞろと大勢で行くこともなかろうと、同行者は雨妹と立勇、そして胡霜フー・シュアンである。

 胡安が友仁にベッタリ張り付いてばかりであると、色々な業務が滞るためでもあり、早速胡霜の存在が活躍していると言えよう。

 部屋へ入り扉の前に立勇が立つと、お茶の用意を整えていたリフィが、友仁を前にして優雅に礼をしてみせた。


「友仁殿下、お約束通りに奶茶を淹れに参りました」


その顔色は、朝とさして変わらないように見える。

 友仁も同じようにリフィの様子が気になったようで、微かに眉をひそめていたが、すぐにニコリと笑顔になる。


「リフィの淹れるお茶を、楽しみに待っていたよ」


そう告げた友仁は、朝に沈からリフィについての重たい話を聞かされたばかりであるが、そんなことを感じさせない態度である。

 これは友仁が腹芸に優れているというよりも、「リフィを良い人だと信じる」と心に決めたからなのかもしれない。


 ――私も友仁殿下も、リフィさんのことをたくさん知っているわけじゃあないもんね。


 人というものは目に見えるものが全てではないとは思うが、それでも目に見える情報を集めきることだって重要だろう。


「光栄なことでございます」


社交辞令ではない、感情の籠った友仁の言葉に、リフィが笑みを深くする。

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