第464話 人手を増やそう

 まあ、そのようなシェンについての考察はともかくとして。


「ジャヤンタ様とリフィさんが今後どうするかで、だいぶ情勢が変わる感じですか?」

「そういうことだな」


雨妹ユイメイが問うのに、立勇リーヨンは難しい顔で頷く。

 やはりジャヤンタとリフィには、平和的に話し合いをしてどこか別の場所へ行ってもらうのが、最善の選択なのだろう。

 少なくとも、二人を一緒に滞在させるのは危険が大きい。

 沈とて、まずはジャヤンタをどこか信頼できる他国へと旅立たせ、リフィを一般人として生きていける程度に教育してから、こちらもいずれはやはり他国へと旅立たせるというのが、当初の予定だったのかもしれない。


「なにはともあれ、まずはジャヤンタ殿下が移動に耐えられるくらいに回復してもらわなければ、話にならない」

「ごもっともです」


立勇が全てにおいての大前提を語り、雨妹も同意する。


 ――体力回復のためには、ジャヤンタ様を健康的な生活環境に戻してあげなきゃ。


 そこは雨妹も精一杯頑張るつもりだが、ジャヤンタは今、友仁ユレンが滞在する離宮内で隠されている状態だ。

 ジャヤンタの世話をするためには、外部の者への言い訳対策として、友仁と面会をしてもらわなければならない。

 あと朝食後の友仁との会話から、午後にリフィがお茶を入れに来てくれることになったので、その時にリフィとも話をして、彼女の為人を見極めることも大事であろう。


 ――なんだか、急に忙しいなぁ。


 けれどこれが「戦争やろうぜ!」という人たちを勢いづけないためには、大事な局面であるのはわかる。

 おそらくはチー家の大口の客とは、そうした「戦争歓迎派」の人びとなのだろう。

 沈に頑張ってもらわないと、再び戦乱に突入である。

 「戦争反対、美味しいものを皆で食べて平和に生きよう派」の雨妹としては、そこは断固として阻止したい流れだ。


「よし! 私、頑張ります!」


雨妹は握りこぶしを作り、そう宣言する。


「いや、お前が頑張るのは不安になるので、そこそこで良い」


しかしこれに、立勇から若干理不尽な突っ込みがあったのだった。



そのようにして、雨妹が今後の予定を整理してから友仁の下へと戻ると、友仁ユレンも今後の予定を胡安フー・アンに確認されていた所であった。


「……ですがその前に、友仁殿下にお会いしていただきたい者がいます」


胡安にこのように言われて、友仁は首を傾げている。


「誰か、会わなければならない方がいたかな?」


友仁の問いに、胡安が若干渋い顔で答えた。


「殿下のお付きを増やすという件です」


なるほどその問題もあったかと、雨妹は思わず手を打つ。

 色々なことがあり過ぎてすっかり忘れていたが、確か、胡安には人手に心当たりがある風な口ぶりであったように思う。


 ――誰だろうな?


 雨妹は友仁の一行の面々の顔を思い浮かべるも、「この人だ」という予測ができない。

 扉の内側を守っている立勇を見ると、あちらも軽く驚いている。

 ということは、立勇もこの人員補充の相手を予測できていないのだろう。

 このように皆で首を傾げている中で、胡安が告げた。


「実は念のためにと、予め友仁殿下の一行にねじ込んだ者がいるのです」


なんと、胡安は最初から人手を用意していたのだ。

 彼の用意周到さに雨妹は感心するが、胡安は何故かさらに渋い顔になる。


「私は不要のままに過ぎることを期待していました。

 その者も胡家で、私の一族であり、身元も確かなのですが……少々礼儀がなっていないので、本来であれば御前に上げるような人物ではなく」


胡安が紹介したいのかしたくないのか、微妙な言い回しをする。

 しかし礼儀云々ということであれば、雨妹だって本来ならば皇子に近しく接するような礼儀を身に付けてはいない。


「ただ、当人も子を育てる母親であるので、その点の気遣いの面では良い人事であると思いたく」


結局渋々推薦するような言い方をする胡安に、雨妹は戸惑いしかない。


「あの、一体どういう方なのですか?」


雨妹が尋ねると、胡安が眉間に皺を寄せて、低い声で告げる。


「私の妹だ」


なんと、全力で嫌そうにするので誰かと思えば、妹とは。


 ――妹相手に、そんな嫌そうな顔になる?


 逆に興味津々になる雨妹なのだった。

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