第462話 寝起きで情報共有
しかもスッキリとした気分で起きたら、先に起きていた友仁に寝顔を見られていた始末である。
「……おはようございます。
申し訳ありません、寝てしまいました」
雨妹が謝罪をしながら照れ笑いをした。
「ふふ、一緒に寝たね」
すると友仁がそう言ってクスクスと笑う。
「無礼者!」と怒らない、優しい皇子殿下で命拾いをした雨妹である。
それから雨妹は顔を洗って気分をシャキッとさせてから、友仁にも顔を洗う水を用意して身なりを整えるのを手伝い、
「よく眠っておられたようですね」
胡安が雨妹を見るなりそう声をかけてきたところを見ると、どうやら彼にまで寝顔を見られたようだ。
――私、いびきをかいたり、よだれを垂らしたりしていなかった?
雨妹が己の不覚を恥じ入っているばかりだ。
「失礼します、
するとそこへ、扉を叩く音と共に立勇の呼びかけが聞こえた。
「どうぞ、お入りください」
その声に胡安が答えたので、立勇が室内へと入ってくる。
「雨妹、起きたか。
主と一緒に寝るとは、側仕えとしてまだまだ未熟だな」
立勇は雨妹を見るなりそう言うが、表情を見るに叱責の言葉というよりも、雨妹をからかっているのだろう。
――立勇様にまで寝こけていたところを見られていたなんて、恥ずかし過ぎる!
恥ずかしくて縮こまっている雨妹であったが、立勇に手招きされたのでそちらへと寄っていく。
友仁は胡安から昼寝後のお茶を出してもらうようで、その様子を横目に雨妹は立勇に連れられて隣室へと移った。
「まずは、ジャヤンタ殿下は今の所変わりない。
お前が気にしていた、寝すぎて出来たという傷も、
立勇が切り出した話に、雨妹は「そうですか!」とホッと息を吐く。
どうやら雨妹がぐっすり寝ていた間に、立勇はジャヤンタの様子を見てきてくれたらしい。
呂にも床ずれの知識があったようで、雨妹の意見がすんなり受け入れられたのは幸運である。
「それと呂が言うには、
ただ、王族の個人的な事情までは知らんと言われた」
むしろ呂は、リフィが王太子妃になるために迎え入れられたことで、丹は既に宜の属国となり下がったとばかり思っていたという。
「沈殿下が語られた内容は、最新情勢であるのだろう」
立勇の話を聞いて、雨妹は「ふぅむ」と唸る。
「崔は、丹が宜を押し返すとは考えていなかったんですね」
「まあ、それも丹と宜の国力の差故だろうな」
雨妹が眉を寄せながら述べるのに、立勇がそう返してからしかめ面になる。
「しかし、これで友仁殿下は容易に引き下がれなくなった」
沈が「最新の情報」という、それなりの対価を先に払ってしまった。
これで友仁がなにもせずに都に帰ってしまったら、沈からその対価を「貰い逃げ」した形になってしまう。
対等な皇子であるという立場上、それはよろしくない事態であるのだそうだ。
――そうか、情報の価値ってそれだけ重いんだね。
前世ではインターネットで検索すれば、様々な情報が簡単に手に入った。
けれどこの世界では、情報とは人が現地に向かい、その五感で直に確かめて手に入れるものであり、場合によっては命がけとなることも多いはずだ。
だからこそ、呂のような「影」と呼ばれる集団を偉い人たちは独自に持っていて、より優位に立てる情報を集めようとするのだろう。
そんな情報を出す隙を、沈は知り尽くしているということか。
「さらっとこちらを嵌めてくる人ですね、沈殿下って」
「むしろああでないと、この地を治められぬということだろう。
自国からも他国からも、下手に言質を取られるわけにはいかないのは、理解できる」
いっそ感心してしまう雨妹に、立勇が思案するようにして語る。
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