第332話 ダジャの噂
第二王子となったルシュの存在を、先代王妃に強引に押し通された王宮も扱いかねていた。
まず問題視されたのは「第一王子と同列に扱うのか?」という点だ。
その解決策として出されたのが、婚姻相手である。
ダジャは当時最も血の近い従妹を娶り、ルシュは国外からの妻を娶る。
こうして格差をつけることで、ルシュを王位から遠ざけたのだ。
これでダジャにとって、ルシュを心配する材料がなくなった。
あくまで予備の王子であり、ダジャに万が一など起こるわけがないのだから、無駄な予備でしかない。
それにルシュの妻となるべくやってきたのが東国の姫であり、しかも半ば追放される扱いである日陰者の娘。
かつて王族が縁付いた近隣の国ではない異民族であり、大した権力もないことに、ダジャは安堵する。
彼らの間に己を脅かす存在が生まれるはずがない。
けれどルシュの処遇について解決したと思った矢先、ダジャにまた新たな問題が持ち上がってしまう。
「第一王子殿下は、閨での行いがよろしくない」
そのような噂が密やかに、しかし確実に広まっていたのだ。
しかもその噂は、なんと閨番の者たちの口から流れているという。
閨番とは、国王の閨を監視する役割の者のことである。
ダジャは次期国王であるので常に閨番がついていて、閨の様子を複数人から見られる状態で事を為すのは、当然の生活であった。
その生活の一部である閨番が、閨の中の事を外で吹聴するだなんて。
しかも悪意ある嘘を流すだなんて、あってはならないことであろう。
もちろん閨番に激怒したダジャであったが、その閨番をなんと妻である従妹が庇ったのだ。
「ダジャルファード様、わたくしは閨が辛いのです。
彼らはそんなわたくしの想いに共感してくれたに過ぎません」
なんと従妹曰く、閨に悩み嘆いていた妻を閨番が慰めていた話が、外部に伝わったのだろうというのだ。
つまり、噂の出どころは己の妻であった。
「閨が辛い」
この言葉は、その時ダジャにとって最も聞き入れ難いものであった。
というのも、ダジャたち夫妻の間にはまだ子が出来ていなかったからだ。
父王は子を生むのに祖母に頼ったが、それでも結果ダジャ一人しか子をもうけられていない。
そのように悩む中での事件であったので、ダジャにとって大きな衝撃であり、怒りと悲しみがないまぜになった感情をそのままぶつけるように、従妹とその相談に乗った閨番を酷く折檻した。
その間、二人で庇い合う姿が、またダジャを逆上させる。
――王妃のみならず、お前までも裏切り者に堕ちるのか!?
ダジャの心がどす黒い想いで染まっていく。
ダジャには、妻を切り捨てても代わりとなる女はいない。
より濃い血をつなぐのが国王の役目であり、従妹よりも血の薄い妻などあり得ないのだ。
――このままでは、無駄な予備だと思っていたルシュが、予備ではなくなってしまう。
このような恐怖に襲われていたダジャに寄り添い、慰めてくれたのは、ダジャの軍の仲間たちである。
ともに剣を振るい夜通し飲み明かし、ダジャの荒れた心を慰めてくれた。
そうして次第にダジャには王宮が居心地の悪い場所となり、居つかなくなってしまう。
やがて仲間と共にフラフラとして、さらなる戦いを求める日々を送っていた時。
このようにダジャが留守にすることが多くなった王宮では、とある衝撃の情報がごく一部の者たちの間で発表されていた。
「ダジャルファード王子には、子を為すための子種がない」
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