第331話 二人の王子
ダジャは生まれ落ちた瞬間から次期国王として生きることが決められていた。
それ故に厳しく教育されながらも何不自由なく育ち、国民からは「優秀な跡取りである」と評され、父王からも将来を期待されていたのだ。
その明るい未来への道が徐々に崩れ出したきっかけは、いつだったであろうか?
大きなきっかけはやはり、弟である第二王子ルシュフェル――ルシュの存在だろう。
ダジャが父王の子である一方で、ルシュの父親は父王ではない。
ルシュは王妃が父王の臣下の男と過ちを犯した末に生まれた子である。
なのでダジャが父王と祖母――先代王妃との間に生まれた子なので、兄弟でもなんでもないのだ。
ダジャが耳にした噂によると、王妃と臣下の男とは王妃が幼少の頃より付き合いがあり、王妃がかつてより恋心を抱いていた相手であったという。
だが古来王族のしきたりとして、王妃は兄王との婚姻が定められている。
故に王妃は恋する相手と添い遂げることはできなかった……はずだった。
王妃たち二人の恋が破れたと思っていたのは周囲ばかりで、当人たちの恋は続いていた。
そしてそれを、子どもを産むという形で成就させたのだ。
王妃は父王との間では子を作らず、それなのに浮気男との間にはあっさり子を為したことに、父王は当然激怒したし、周囲も王妃の不義をこれでもかと責め立てた。
だというのに、何故かその王妃の不義の証の子であるルシュが、王子として認められてしまう。
しかも周囲にこれを説得してみせたのは、なんとダジャの母である先代王妃であった。
「王子一人しかおらなんだら、その王子の身になにかが起きればいかんとするや?」
しかも誰とも知れないわけではなく、王妃の子であるということは、王族の血を引くことには違いない。
それに父王は身体が強い方ではなく、病がちでもあった。
父王が万が一崩御となり、王子が不慮の事故にでも遭ったならば、国の未来はどうするのか?
この先代王妃の言葉は、ほとんどの者には説得力のあるものだった。
父王も周囲も「万が一のために」と、ルシュを渋々ながら受け入れたのだ。
けれどこの大人の決定を、決して受け入れられなかったのはダジャであった。
不義の子を産んだ王妃を庇い、ルシュの後ろ盾となり守った先代王妃が考えていることが、ダジャには全く理解できない。
「王家の純血を守ることこそ、王族の意義なのではないのか?」
いつだったか、あくまでルシュと王妃を庇う己が母でもある先代王妃に、ダジャがそう食ってかかったことがある。
すると、先代王妃は感情を見せない顔で、じっとダジャを見つめて告げた。
「ダジャルファード、実に王家の者らしい、女の涙を糧に生まれ落ちた男よ」
その言葉が何処か責め立てるような声に聞こえて、ダジャは戸惑うしかなかった。
何故自分が責められねばならないのか、全くわからない。
しかしこのことで王家の意義を歪められた気がして、ダジャは王妃とルシュの存在を許した王宮が汚らわしい場所に感じてしまい、王宮に居つかなくなった。
剣の腕に自信のあるダジャは軍暮らしが心地よく、気の合う仲間たちと馬を駆り、時には船を出し、悪党退治に明け暮れた。
戦って賞賛されている時が、ダジャは最も安心できた。
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