第319話 爆発する宇

こうしてマオ官吏によって案内された先にいたのは、太った東国人であった。

 細身な苑州の男が、その東国人と一緒に並んで縄でぐるぐる巻きにされていた。


『このようなことをして許されると思うな!

 見ていろ、今に本国が大群をもって、ここへ襲い来るぞ!』

「この縄を解け、でないとどうなるかわかっているのか!?」


東国人が何事かを喚き、苑州の男も唾を飛ばしながら叫ぶ。


「誰だ?」

「東国が派遣した長官と、あっちは一応州丞だそうで」


恫喝する男たちをちらりと見た大偉ダウェイが短く問うのに、フェイが答える。

 ちなみにこの二人に縄を巻いたのは、当然飛である。

 飛の言葉を聞いてまだ勝ち目があると思ったのか、州丞だという男がニヤリとする。


「わざわざ慰み者にされるために戻ってくるとは、宇様も好き者でございますなぁ!」


その言葉は悪人らしいが、大偉たちには全く怖いと思えない。

 というのも、この二人は何故か共に全裸であるからだ。

 一体なにをしている時に捕まったのか? という疑問が出るところだが。


「いやぁ、これほど見たくもないものを見たと思ったのは、いつぶりですかねぇ」


飛が実に嫌そうに述べた。

 曰く、この二人は外が戦闘状態である時に、閨で仲良く耽っていたそうだ。


「なるほど」


これを聞いた大偉の顔が興味を無くし、やる気を失ったのが見えてとれた。

 ただでさえ対人への関心が薄い大偉であるので、この手の輩にはもはや存在を感知したくないらしい。


「あのさぁ、馬鹿なのあんたら?」


興味を無くした大偉の代わりに、言葉を紡ぐのはユウであった。


「大軍を出す気なら、こんなせこい事をしないで最初からドカっと攻めている気がするんだぁ。

 それをしないでちまちまやっているっていうことは、所詮小遣い稼ぎ程度の値打ちってことでしょ、ここは。

 州城の偉い奴らって基本腰抜けだから、そう言っていれば楽に従えられたんだよね?

 馬鹿は扱いやすかったでしょう」


宇は東国人にわかるようにだろう、時折東国語も交えながら話をする。


「あの従兄も単純だから、『民のために』って東国人のお偉いさん専用男娼になるのを受け入れるなんて、自己犠牲に酔っているとしかいいようがないね。

 まあそんな事でも『自分は役に立っている』って思えたから、楽だったんだろうさ。

 僕に言わせりゃあとっとと逃げればいいのに、何家の一員であることを捨てられない人だったから。

 ほんっと、何家の生き残りって頭使わない奴らばっかり!」


宇が怒りを爆発させるのに、毛父娘すらも目を見開き固まっている。

 このような宇の本音は、この二人ですら聞いていなかったのかもしれない。

 だがここで、宇は「ふう」と息を整える。


「僕もさぁ、これでも里では『優しい子』っていう印象で通していたんだから、静にさえ手出しをしなかったら、普通に傀儡して多少の贅沢暮らしを受け入れたかもね?

 けど、静をいじめる奴は人間じゃなくて畜生以下だってことに、僕の中では決まっているんだ。

 薬と人身売買って、まあ悪党商売の常套手段だよね?

 特に人身売買は、あんたたちみたいな厳つい体格の人種には、このあたりの人種は男でも女でも、閨の相手として人気があるんでしょう?

 前だって西洋系人種にアジア人は人気だったし。

 手っ取り早い商売で、楽だったんだよね?

 けどそれは僕の趣味じゃあない」


宇はここまで長々と一気にしゃべってから、足を大きく振り上げると。


 ドゲシィッ!


 目の前の全裸二人を蹴飛ばした。

 なかなかの体重の乗せ方で、二人はゴロンと転がる。


「そんな商売の片棒を担いだなんて、もし僕がジンに誤解されて嫌われたら、お前らはどう責任を取ってくれるんだ、アァン!?」


脅す声が子どものものながら、迫力があってなかなかの威圧感だ。

 脅し慣れているかのようであった。


「あ~スッキリした♪

 やっぱり言いたいことを言わずに溜め込むって、健康によくないね!」


一方で、言うだけ言えた宇は、爽やかな表情となる。

 けれど、これで万事解決というわけにはいかない。


「さて宇よ、改めて問うがどう罰したい?

 将軍とやらはうっかり首を刎ねたので、この二人はできれば生かして情報を絞りたいところだ」


一番の被害者の意見を優先する気がある大偉が尋ねたところ、宇が「う~ん」と考えてから「いいことを思いついた!」という顔をした。


「罰の案、あるよ! あのねぇ、ごにょごにょ……」

「なるほど、嫌がらせの罰としてはこれ以上ないな」

「でしょ? コイツらってたくさんの女の子も男の子も大人も泣かせたんだから、罪を償うのってコレしかないって思う!」

「……それ、誰がやるんで?」


宇と大偉が盛り上がる中、飛が嫌そうな顔をする。

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