第249話 ダジャの話
『お主も知っておろう、
ダジャがそう語り出す。
隣国は東国の友好国というよりも、実質的には属国であるという。
隣国の国王は仮の統治者でしかなく、国を動かしているのは東国であるというのだ。
ある時その隣国を通って、東国が把国へ侵略戦争をしかけてきた。
もちろん把国としては、そんなものを許せるわけがない。
第一王子であるダジャは当然、軍を率いて迎え打つつもりであった。
しかし、計算違いの出来事が起きてしまう。
ダジャが信頼をしていた側近が、裏切りを起こして東国を引き入れてしまったのだ。
この裏切りのせいで、ダジャは予想外の夜襲を受けてしまい、大怪我を負わされた末に敵の手に落ちてしまったという。
軍の要であるダジャが落とされ、さらには他の部隊でも想定外の苦戦が続き、把国はついに東国の手に落ちた。
このことを、ダジャは後から聞かされたそうである。
『把国陥落の原因は、把国の王宮内に裏切り者がいたからだ』
裏切ったのは、ダジャの側近だけではなかった。
そもそも裏切り者の大元は、ダジャの腹違いの弟である、第二王子であったのだ。
第二王子は武でも学問でもダジャに劣ると見なされ、周囲から侮られていたのだという。
しかし当人は努力というものが嫌いな性格らしく、「努力して第一王子を追い越す」という方向へ成長しなかったらしい。
こうして劣等感ばかりが膨らんでいた第二王子に、東国が目をつけたのだ。
第二王子は東国から国王の座と大金の援助を約束され、あっさりと裏切りを決意する。
ダジャが東国軍の討伐に出ている間に、第二王子は父王を殺してしまう。
さらにはダジャの側近に金を掴ませて、同じように裏切りに走らせた。
その側近は腕が立つし戦場では頼りになる男なのだが、少々金にだらしのない男だったのだという。
だが第一王子の側近なだけあり、他よりもかなりよい給金を貰っていたはずなのだ。
『一体なにをちらつかされたのか、金でなければ女だろうな。
しかし、東国というものは本当に人の信頼を踏みにじるのが得意なことだ』
ダジャがそう吐き捨てるように漏らす。
その後大怪我を負ったダジャは、犯罪奴隷の証をその身に刻まれ、他国の奴隷商人に売り飛ばされてしまったのだという。
奴隷商人から売られた先で、ダジャは己は犯罪奴隷などではないと、何度も身の潔白を訴えようとしたものの、犯罪奴隷の証を刻まれた者が「私は王子だ」と言っても、一体誰が信じようか?
それにダジャは怪我も治っていない内に過酷な場所での労働に駆り出されてしまったことで、かつての武に優れた王子としての面影はなくなってしまっていた。
「王子だ」と主張するダジャは気がおかしくなった男だと思われてしまい、扱いにくい奴隷だとされて、さらに劣悪な場所へと転売されていく。
その末に、
『あの地で私は、どうやら見世物にするつもりで買われたらしい』
当時のことを、そのように語る。
把国は崔国との国交が盛んでもないので、こちらに国使がやってきたことは、少なくとも志偉の代ではない。
そのように把国人を見たことがないような土地柄だったことで、珍しい風体のダジャを見世物としての興行に使えると思われたらしい。
ダジャとしては、珍獣扱いされたというのは怒りを覚えるところだ。
けれど見世物にするためには、外見が整っていなければならない、と問題になった。
というのも、苑州へ来た頃のダジャは、過酷な労働とろくに食事を与えられなかったことから、かなりやせ細っていた。
見世物としての外見がよろしくない、というわけだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます