第250話 流れ着いた地
当時の自分について、ダジャが語る。
『それでも、いつかこの仕打ちについてやり返す気力を失わずにいたため、命を繋げていたのだろうな』
そんなわけでその頃は、目だけを爛々とさせている、やせ細った不気味な異国人という扱いだったらしい。
様々な者を介され売られてきたので、当然ダジャの素性を欠片でも知っている者など、誰もいなかった。
だが立派な見世物にするために環境が改善されると、ダジャは元々の逞しい肉体を徐々に取り戻していく。
そんなダジャを見た商人は「これは見世物ではなく、偉い人に高値で売れるのでは?」と考えを変えつつあった。
鑑賞用でもよし、閨を共にさせるもよしと、商人は言っていたそうだ。
そんなダジャに、とある人物が目をつけた。
それはダジャを売る商人が売り込むために国境砦を訪ねた時に、出会った少年である。
その少年が「その奴隷が欲しい」と言って、ダジャを買ったのだ。
『その子どもは
奴隷が奴隷を買うのかと笑っていたな』
このダジャの話に、
『
黄家が守る佳の街とて、海の外から訪れる他国と接する地だ。
なので当然不届きなことをしようとする他国の輩を見張る砦は、当然ある。
そんな砦の中に崔国人の奴隷がいるというのは、まあ下働きなどがいてもおかしくはない。
だがこれが東国の奴隷だと称したとなると、黄才にとって違和感しかない。
それは他の面々にしても同様だったらしく、通訳を聞きながら様子を見守っている彼らの顔には、戸惑いが広がっていた。
「かなり以前から、東国に入り込まれていたようですな」
「国境守として、
『その子ども――
「何だと!? 何家、大公家の子どもが東国の奴隷だと言ったのか!?」
黄才は驚きのあまり、崔国の言葉で叫んでしまう。
これに、一同がギョッとした顔になってざわめく。
そんな彼らを見渡して、ダジャは落ち着いた声で話を続ける。
『私は最初、あの砦のある地を東国だと思っていた。
博に教えられるまで、東国と敵対している隣国の地だとはわからなかった』
そう語るダジャ曰く、今の苑州では何家とは東国への人質であるという。
周囲の者が何家の者を差し出し、東国から金を受け取っているらしいのだ。
『なんでも、東国人に何家の者は人気があるのだという。
東国を介して他民族の血が混じっているが故だろう、私から見ても、何家の者はなんともいえぬ美しさがある』
その混血の美が、他国で鑑賞用として高値が付くのだと、ダジャを連れている商人が言っていたそうだ。
「なんという愚かなことを……」
苑州で行われていたことを聞かされた黄才は、
同じ他国からの干渉を受ける地の大公であるというのに、黄家と何家のこの違いは一体なんだろうか? 利を得るために大公家の者を奴隷として差し出すなど、黄家では起こり得ないことだろう。
「外見だけが取り柄じゃあるまいに、何家は大公家としての威光を持ってはいなかったのか?」
呆然とした顔でそう告げた黄才に、答えたのは
「はるか昔から苑州の地は、東国側と崔国側とで所有がころころと変わっていますので、かなり混血が進んでいるのは、間違いありません」
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