第244話 やっとおやつ
そんな話をした後。
せっかく
さらに豆沙包は
「まだそれを視界に入れたくない」
静が拒否したので、それが余ることとなった。
「じゃあ、これを
「誰かにさっさと食べてほしい」
雨妹の提案に、そんな答えが返ってきた。
どうやら目に毒だと言いたいようだ。
というわけで、雨妹と陳とでおやつとなった。
「どうそ!
立彬様が持ってきたものだし、きっといい材料を使っているはずです!」
「ふむ、そいつは味わって食べないとな」
雨妹がそう話すと、陳が豆沙包を太子宮の方角へ捧げるようにしてから、パクリとかぶりつく。
「うん、美味いな」
「美味しい~♪」
陳と二人で豆沙包を味わっている様子を、静が牀に腰かけて眺めている。
「静静も、早くおやつを食べられるくらいになったらいいね」
「そうだな、その年頃だと普通なら、いくら食べても食べたりないものだぞ?」
「……はぁ」
そんな静に雨妹と陳がそう言うと、彼女はお茶を一口飲んで、眉間に皺を寄せつつ息を吐く。
――およよ? 「今食べる話をするな!」とか言うかと思ったけど。
静のこの悩ましそうな様子を見るに、先だって雨妹が話した「食べなければ逞しい身体に育たない」という言葉を覚えていて、本当は食べたいのだろう。
しかし、食べる気持ちがあるのはいいことだ。
これが重症だと、食べたいという気持ちにすらならないのだから。
「静静、胃薬も貰えたし、これからだんだん食べられるようになるよ。
まずは一度に食べる量を増やすより、食べる回数を増やしていこうか。
美娜に頼んでおやつをできるだけ用意してもらうから」
「……うん」
雨妹の助言に、静は素直に頷くと、またズズッとお茶を飲む。
「あと、食べ方も気をつけるんだ。
噛まずに丸呑みするような食べ方は、腹に余計な負担をかけるからな。
少しずつ口に入れて、よく噛んで食べること。
それが一番の胃薬だぞ?」
陳からも医者としての助言が出た。
確かに、よく噛んで食べることは健康的な食事の基本である。
「食べ方なんて、これまで考えて食べたことない」
静が首を傾げるが、恐らくはこの国の多くの人がそんなものだろう。
前世だって消化に良い食べ方なんてことが意識されるようになったのは、そう昔のことではなかったのだから。
「これから気を付ければいいんだよ、静静」
「そうそう、何事もこれからが大事だぞ?」
雨妹と陳の言葉に、静は「これから……」と小さく呟いた。
そうしているうちに時間が経つと、静は胃薬が効いてきたようで、少しスッキリとした顔になった。
「うん、顔色が良くなったねぇ。
まだどこか辛い?」
「身体が軽い!」
雨妹が静の調子を確認すると、本人が元気にそう告げる。
どうやら胃薬がてきめんに効いたようだ。
そんな静に、陳が注意事項を述べた。
「胃薬は食事前に飲むように。
身体の働きを補う薬も混ぜてあるから、良くなりたいなら苦くてもちゃんと飲むんだぞ?」
「あれ、すごく苦いんだけど……、わかったよ、飲む」
静は反論を試みたが、陳の目力に負けて頷く。
「雨妹、薬の時間に気を付けてやれ」
「はい! 静静、頑張って飲もうね」
雨妹が励ますように言うと、静はふてくされた顔になる。
――こういうところは、やっぱりちゃんと子どもなんだよねぇ。
身体が大人並みだと、心まで大人並みだと思われそうだが、やはりまだ子どもなのだ。
この子どもの静を、雨妹はできればそのままでいさせてあげたい。
「その元気さだと、夕飯は入りそうだね!」
雨妹がそんな気持ちを込めて、からかい調子で言うと、静は嫌そうに眉間に皺を寄せる。
「……朝のアレを、また食べなきゃいけないの?」
本気で心配する静に、雨妹は「いやいや」と首を横に振った。
「夕飯はあんなに大盛にされることはないって。
朝はこれから働く人のご飯だから、特に盛られるんだよ」
「ふぅん?」
しかし静は「信用ならない」というように雨妹を見た。
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