第243話 早速バレた
――こんなものかな!
今誰かが入ってきても見苦しくはないだろうと、
「おい雨妹」
「はい?」
すると、陳が険しい顔をしていた。
「この娘、本当に新入りの宮女か?」
そしてこう尋ねたのはさすが陳だ、
雨妹も陳なら静の年齢に気付くのではないか? と考えていたので、問われても驚きはしない。
「陳先生、内緒でお願いします。
雨妹は陳にニコリと微笑んでそう答えた。
「……なるほど?」
雨妹の説明に陳はため息を一つ吐くと、ほんの少し表情を和らげる。
安堵したというよりも、諦めたのかもしれない。
それにしても、静の年齢はやはりわかる人にはわかるのだ。
――もしもの場合を考えたら、すぐに医局に来てよかったのかも。
雨妹は結果的に運がよかったと言える今回の医局来訪を、そう考える。
もし静が雨妹がいない時に怪我などをして医局に担ぎ込まれて、そこで素性が露呈したら、きっと大騒ぎになっていたことだろう。
けど今なら、陳に便宜を図ってもらえる。
「それで、静静はどんな様子ですか?」
雨妹が診察結果を尋ねると、陳は「そうだなぁ」と顎を撫でる。
「腹の中の動きが悪いな、腹が固いし冷えている。
これじゃあろくに食べ物を消化できず、苦しいだろう」
「ははぁ、やっぱりですか」
想像通りの答えが返ってきて、雨妹は納得顔になる。
「腹の動きを良くする薬を出しておくので、これを飲めば楽になるはずだ。
それにしても痩せすぎだから、ちゃんと食事を食べさせるんだぞ?」
「わかりました、気を付けます」
さらに陳から注意されて、雨妹は深く頷く。
その後静は早速処方された胃薬を飲んだ。
「うへぇ、苦い……」
薬湯になっている胃薬を一気に飲み干すと、壮絶に顔をしかめる。
どうやら苦い味が苦手なようだ。
まあ、薬を飲むのが得意な者というのは、あまりいないかもしれない。
「ほら、口直しにこちらを飲め」
陳はちゃんと口直しのお茶を用意していたので、静は素直にそれを受け取って飲んでいる。
静は薬が効くまでしばらくかかるだろうから、それまで様子見である。
一方の雨妹は、待っている間に立彬に貰った豆沙包を食べることにした。
「お祝いだって立彬様に貰ったんですけど、ここで食べていっていいですか?」
「そりゃあいいが、そういえばお前さんは出世したんだな」
豆沙包を取り出した雨妹に、陳が思い出したように告げる。
「はい、けど出世の最初も最初の一歩ですけどね」
大騒ぎをされるような急速な出世というわけでもないので、雨妹としてはあまり大げさに胸を張れるものではない。
指導役になったのが後宮入りして一年というと早い気がするが、この一年でこなした掃除量を考えると、順当な気もする。
普通一年未満の新人は、これほど掃除をこなすものだろうか?
せいぜい大勢でやる回廊や庭園などの広い場所の掃除をやって、掃除の腕をこつこつと積み上げるところだろう。
事実、雨妹以外の新入りはそんな感じの仕事をしていた。
雨妹一人が例外なのだが、これもある意味、放任だった雨妹の指導役の李梅のおかげともいえた。
それはともあれ、陳はこの雨妹の言葉を謙遜だと捉えたらしい。
「何事もその第一歩から始まるもんさ。
これからぐんぐん上に行くかもしれんぞ?」
発破をかけるようにそう言ってくるが、雨妹としては冗談ではない。
立彬といい、雨妹の出世を促すようなことは止めてもらわなければならないのだ。
「やめてくださいよ! 私は出世をして忙しくなるなんて御免です、そこそこ働いて、趣味に生きるんですから!」
力説する雨妹に、陳が目を丸くする。
「趣味って、野次馬か?」
「そうですけど」
からかうつもりが真顔で肯定されて、陳が呆れ顔になった。
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