第105話 探し人
「
「居所が知れているわけではないが、大方合っているだろう」
――なんで飲み屋?
近衛であるなら、外城でも武具などを扱う店にでも出入りしているのか想像すれば、まさかの飲み屋とはと呆気にとられたものの。
そう言えば
あれは謙遜ではなく、真実飲んだくれであるということなのか。
「雨妹、お前も気を付けて酔っ払いを見ていろ。
探すのはずんぐりむっくりで髭もじゃな厳つい男だ」
立勇に指示され、雨妹も周囲の観察をすることになる。
――っていうか、探すのは酔っ払いで決定なのか。
どれだけ酒好きな相手なのだろうかと呆れながら歩き、雨妹と立勇でそれぞれ飲み屋を一軒一軒覗いては出てを繰り返す。
さすが都なだけあり、庶民でも質の良い酒が飲めるのだろう。
辺境で出回っている酒は発酵度合いが低くてほぼ水なのが多いのに比べて、都の飲み屋からはちゃんと酒の香りが漂ってくる。
そして人口も多いため、飲み屋の数が多かった。
けれど時間的にまだ夕食には早く、一応飲み屋も開いてはいるものの、酔っ払いが多く出没するような頃合いではない。
この時間から酔っ払っている者は、おそらく一日中酔っ払っているのだと思われるが、通りを堂々と歩いてはいない。
雨妹と立勇でウロウロ、きょろきょろすることしばし。
「……いたぞ」
立勇が目的の人物を発見したのは、探し始めてからだいぶ日が傾いてきた頃、三本目の路地にある飲み屋を覗いた時であった。
「らっしゃい」
「……邪魔するぞ」
「お邪魔します」
入るなり声をかけてきた店主に、立勇と雨妹は挨拶をして、奥の席へと進む。
そこには、一人の酔っ払いが卓の上に突っ伏していた。
立勇が言った通りな「ずんぐりむっくりで髭もじゃな厳つい」中年の男で、赤ら顔で酒臭く、どう見ても泥酔している。
「明様、起きてください明様!」
「うぁ……」
立勇が何度が肩を叩きながら声をかけると、男――明が唸り声のようなものをあげる
――ふぅん?
雨妹は明を見て、いくつか気になった点があるものの、それを脳内に留め置くことにして、とりあえずうつ伏せはなにかの拍子の窒息が怖いので顔を横に向け、店主に水を貰いに行く。
そして寝ぼけ半分な明の前に、雨妹は店主から貰った水の入った杯を卓に置く。
「もし、もぅし、少々お話をしたいのですが!」
雨妹は「無理だろうな」と思いながらも、明を起こそうと背中を叩いてみるのだが。
「そうなったら、そのお人は起きやしねぇよ」
店主が雨妹と立勇に「無駄な努力だ」と言わんばかりに声をかけてきた。
「いつもそうして寝たまんま門が閉まって帰れなくなって、朝まで寝て待つのさ」
そう言って店主がやれやれという風に息を吐く。
ということは、この明は一日酒を飲んでいるか寝ているかしかしてないのではないだろうか。
――なるほど、正しく飲んだくれだな。
雨妹は楊が明を心配するのも分かる気がする。
「それは迷惑をかけている」
立勇が店主に頭を下げる。
確かに、朝まで客に居座られる店側には大迷惑だろう。
なにせ、店を閉められないのだから。
いや、もしかすると閉店時間になると、店の前に転がされるのかもしれない。
だがそれだって結構な労力であろう。
けれど、雨妹たちは起きるまで待つなんてできないわけで。
「どうしますか?」
「このままというわけにはいくまい。
話もできんしな。
仕方ないので家に連れ帰るぞ」
立勇がそう結論付けた。
というわけで、立勇が連れ出す前に明の飲み代を清算しようとすると、「飲み代は先払いで貰っている」とのこと。
飲んだら金を払い忘れるから、という明の気遣いらしい。
――そういうところを、ちゃんとできる人なのか。
もしかすると、ただの酒好きの果ての飲んだくれというわけではないのかもしれない。
とりあえず雨妹が少しでも酒が抜けるようにと、明の鼻をつまんで苦しがって起きたところで「もっと飲みましょう、これはお酒です」と言って水の入った杯を持たせ、飲ませるということを数回繰り返す。
「……雨妹お前、酔っ払いのあしらい方が上手いな?」
「そうですか?」
感心する立勇に、雨妹はすまし顔で応じる。
前世で看護師という普段ストレスフルな職場で働いていると、酒の席になったらそのストレスが爆発して、はっちゃけ過ぎてしまう同僚というのがたまにいた。
管を巻いて酒を手放さない同僚に水を飲ませる技術はピカ一だと、褒められたものだ。
それから店を出ると、立勇が男を担いで内城へと向かうことになった。やはりそちらに家があるらしい。
――内城かぁ……。
実は雨妹は、内城へ入るのが初めてである。
酔っ払いを連れ帰るという名目ではあるが、少々ワクワクしながら立勇の後ろについて行くのだった。
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お知らせ
現代ラブコメな短編をアップしているので、お口直しに読んでいただければと!
「通学バスの観察者は、「バスの君」に酔いしれる」
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