第83話 お披露目となったのは
「なんだぁ、こいつぁ?」
初めてみるものを前にして目を丸くする利民に、胡が告げる。
「そっちの嬢ちゃんからの注文の品だぜ、元になっているのはこれだな」
胡がそう説明しながら、奥からもう一つの品を前に出す。
「おおぉっ!?」
「どうだ、ちゃんと問題点は改良してあるぜ」
目を輝かせて食いつく雨妹に、胡は「ふふん」と鼻を鳴らしながら話す。
そこにあるのは、以前よりも完成度が上がっている三輪車だった。
もはやモドキではない。
そして、後輪部分の上に籠がつけられている。
「籠をつけたんですね」
「おう、もうちぃっと安定感が欲しくてな。
重さを足そうと思ったんだよ」
――うんうん、日本の三輪ママチャリに近くなったよ!
三輪車に頬擦りせんばかりの雨妹に、立勇は渋い顔をしている。
おそらく変な奴だと思われているのであろうが、それもこの三輪車の便利さを思い知ったら認識がひっくり返るに違いない。
「しっかしよぉ、こっちの動かない車なんざなんに使うんだ?」
胡は自分で作りながらもエアロバイクの用途が分からないらしく、首を傾げている。
「ふっふっふ。それはズバリ、身体を動かすための物なんです!
立勇様、試しに漕いでみてくれませんか?」
「……まあいいだろう」
指名された立勇は、眉を寄せながらも頷くと、エアロバイクに跨る。
動かないように固定されているため、立勇でも問題なく乗れた。
そして踏み板を恐々といった様子で踏み込み、漕ぎ始める。
「言われた通り、車輪が回るのを重くしておいたぜ」
「そのようですね」
どのような仕組みなのか雨妹にはわからないが、ブレーキのような摩擦で止めるようなものを仕込んであるのかもしれない。
立勇が結構真剣な表情で漕いでいるみたいなので、これだと潘公主には重すぎるか。
しばらく漕いでいた立勇が、足を止めてエアロバイクから降りてきた。
「……疲れるな、それに身体のあまり使わない所が動いていた」
「結構全身を動かしたでしょう?」
立勇の感想に、雨妹は尋ねる。
「まあ、そうだな」
立勇はそう述べると、懐から出した手巾で額の汗を拭っている。
自転車を漕ぐという動作は、足だけを使って行うものではない。
足で踏み板を漕ぐにしても、筋肉は全身が繋がっているのだから、無意識であっても全身の筋肉が動いているのだ。
「どうですか?
これは屋内に置いていて場所をとりませんし、
他人の目を気にする必要もないでしょう?」
「……なるほど」
前回は懐疑的だった立勇だったが、実際に自分でやってみて文句のつけようがないみたいだ。
「へぇ、面白ぇモンを作ったな」
利民はというと、興味津々でエアロバイクを眺めている。
「自分でも漕いでみたい」と顔に書いてある彼に、雨妹が話す。
「ちなみに、こっちの一人用の車ですけど。
街中での移動に便利だと思いませんか?」
雨妹の営業トークのような話し方に、胡も付け加える。
「試作品よりも安定感を増しているから、走らせやすいはずだぜ。
なにせ俺でも動かせたからな」
「そりゃあ、乗ってみないとなんとも言えんな」
というわけで、この胡の話を確かめるべく利民が試乗を言い出した。
そして前回と同じ場所に移動すると、黄家の若様がいるとあって、周囲が「なんだなんだ」と人だかりを作る。
その中で、利民は三輪車にまたがる。
そして最初はゆっくりと、やがて勢いをつけて走らせた。
そのまま持ち手をうまく動かして、ぐるっと回って雨妹たちの元へ戻ってくる。
三輪車なので漕ぎ板を止めれば車輪は動きを止めるのだが。
子ども用三輪車と違って速度が出るので、安全のために停止の仕組みが必要かもしれない。
これは後で胡に相談するとして。
「こりゃいい! 爽快だな!」
利民は三輪車の乗り心地を気に入ったようで、まるで子供のようにはしゃいでいた。
「なんか面白そうだな」
「車みたいなものか?」
周囲には人だかりが増えていて、三輪車に群がってくる。
その中で、利民が思案気に告げる。
「佳は道が狭い場所が多いんで、馬が入らない所が結構あるんだ。
けどこれなら行けるんじゃないか?」
「重たい物を持っての移動が、これを使うと楽になるでしょうね」
この意見に、雨妹がそう付け加える。
「短距離の、馬を使うまででもないが少々遠いといった移動には、適しているかもな」
立勇までそんなことを言う。
馬を動かすのは経費を使うので、もしかすると多少の距離だと馬を使う許可が下りないのかもしれない。
ともあれ試乗の結果、利民はこの三輪車を自分用に注文した。
今試乗した三輪車は利民にはちょっと小さいため、乗りやすい大きさを作ってもらうようだ。
――太子殿下も、欲しがるかなぁ?
太子は案外新しいもの好きなところがあるので、お土産にすると喜ぶかもしれない。
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