第7話


 実家には母親が一人で住んでいる。二つ上の姉も住んでいたはずだが、男ができてからは家。とはいえ近所なので、母親と3人でよく外食したりするらしい。写真が、姉から送られてくる。姉は姉で、一人になった母を気遣っているのだろうが、母は一人で気が楽だと、仕事先の仲間とたまに旅行に行ったりもしている。

 帰省する旨は、直前に姉にLINEで知らせた。

「おかえりー」

 久しぶりに会う弟そっちのけで、姉は作業に夢中だった。

「なにしてんの」

「結婚式でプロフィールムービー流すから、その写真選んでんの」

「え、結婚するんだ」

「言ってなかったっけ」

 自分勝手な姉だ。弟への結婚報告なんてそんなもんかもしれない。

 

 テーブルの上にめいっぱい拡げられたアルバム。まだ俺が幼い頃の写真が見える。父も映っているということは、まだ3歳くらいだろう。製鉄所の名前入りの作業着を着た父と、同じ名前の看板が写りこんでいる。記憶にはないが、昔住んでた俺の家兼、亡き父の職場だ。

 その横にあった写真で俺の目は止まった。なんだこれは。

「それ、あんたじゃん、まだかわいーね」

「コレ誰?」

「アンタだって言ったでしょーがよ」

 たしかに、幼い頃の俺も写ってはいるが、問題はその後ろで微笑んでいる男だ。

 俺はもう一度写真を姉に見せ、男を指さした。

「それ、高橋さんでしょ」

 タカハシ?この男が?

 当たり前のように話されても、俺は覚えてない。困惑し写真を凝視したままでいると、姉が補足をしてくれた。

「覚えてない?お父さんが工場やってたときに働いてた人、よく遊んでもらったのよ」

 これは、間違いなくあいつだ。

 いつも俺の家のソファでダラダラとテレビを見て、煙草を吸い、酒を飲んでるやつだ。

 おかしい。この写真は20年以上前のものだ。実際、写真の男の子は今現在26歳になっている。

 だが、写真の中で微笑むあいつは、先日会ったあいつそのままだ。

 百歩譲って、古い写真に俺とあいつが一緒に写っているのは理解できたとしても、年を取ってないのは説明がつかない。

 ひたすら混乱していた俺の心は、次の姉の言葉で粉々に打ち砕かれる。

「確か数年前に亡くなったんだよ」

 頭の中で、俺の思考が停止する音が聞こえた。死んだ?あいつが?数年前に?

 そんなわけない。こないだまで一緒にいたじゃないか。いや、写真のタカハシという男があいつじゃないということか。

 しかし、似すぎなんてもんじゃない、これはあいつだ。

 ますます混乱する俺をよそに、姉は忙しない。

「あ、ほら、こっちにも写ってるよ、ユウちゃんと」

 ゆうちゃん?

 姉の見ていた写真を一緒に覗き込むと、そこには、タカハシというあいつに激似の男が小さな男の子二人と手をつないで写っている。

 一人はさっきの写真にも映っていた幼い俺だ。

 もう一人も俺と同い年くらいの男の子だろう。顎に大きなほくろが目立つ。

 顎にほくろがある、俺と同い年くらいの男の子。

「ユウって、、、あの、こんな字?」

 携帯を取り出し、『邑』と入力し、姉に見せた。

 あいつが雨の中うなだれて座り込んでいた店のシャッターに、でかでかと書かれていた文字だ。

「そんな字じゃないよー。そんなん人に使わないって」

 笑いながら姉はアルバムをめくる。

 笑い事じゃない。

「あぁあったあった。勇ましい、だね」

 ユウちゃん、と呼ばれる男の子の家の前だった。当時でも珍しいだろう、家族全員の名前が表札に書いてある。

 その中に「勇」とあり、その前に顎のホクロが印象的なユウちゃんと、俺が写っていた。

 その後、居酒屋「邑」を切り盛りする店主と、その常連客だ。

 『邑』で、俺は初めてあいつを見かけることになるのだ。

 

 

 

 



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俺の話 あかいし @yuuissy

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