第6話


「健康ランド?」

「うん」

「メシは」

「メシも食えるよ」

 そういうとあいつは慣れた足取りで、建物に入っていく。俺は後に続くしかない。

 なんで健康ランド?俺はこんなとこ来たことはない。

 時間も遅く、二人で風呂上がりにビールを飲んでしまったので、結局そこで一晩を明かすことになった。

  

 


「おはよ」

「おはよー」

 俺が先に声をかけ、あいつが応える。いつものやりとりだ。

 この日も、あいつがハンドルを握り(そもそも俺は原付の免許しか持ってないが)、着いたのは隣県にある公園だった。桜で有名なところだ。

 平日だというのになかなか賑わっている。芝生に敷かれたレジャーシートの間隔が狭い。俺とあいつは当然そんなの持ってるわけはなく、露店で軽食を買って食べ歩くことにした。

 


 不思議な気分だ。

 あいつと外を歩くのなんて、近所の居酒屋やコンビニに行く程度だ。健康ランドやら、花見客で賑わう人混みやら、俺の行動範囲外すぎる。

 あいつの普段見ない一面も知れた。俺と違い、あいつは誰にでも気さくに声をかけるのだ。健康ランドでは、俺が風呂から上がるまで知らないおっさんと盛り上がっていたし、さっきは転んだ小さな子供を起こしてあやしたりしていた。俺じゃない奴と話すあいつを見ることなんて、近所の居酒屋で注文するあいつを見ていたくらいだ。

 やっぱり俺はあいつのことなんて何も知らないのだ。一緒にいる時間が長いというだけで、知ってるのは味の好み、酒の飲み方、煙草の銘柄、好きな女優くらいだ。

 

 露店で缶ビールを買って、縁石に座って飲む。さすがに、公園で一晩寝るのは嫌だと、あいつは烏龍茶にした。二人でいるのに、俺だけ酒を飲むのも変な感じがする。飲んでる間、近くの酔っ払い団体に絡まれたが、シラフのあいつだけ一緒に盛り上がっていた。

 気が付くと薄暗くなっていて、あいつも飲みたくなったのか、近場の温泉旅館に宿を取った。

 やっとの思いで飲むビールを、あいつはうまそうに飲む。ジョッキをあっと言う間に空にして、日本酒へいく。いつもの飲み方ではあったが、いつもよりペースが早い。猪口を追加してもらい、俺も少し飲んだ。あいつの日本酒をもらうのは初めてだった。

「俺、ちょっと帰省しようかな」

 日本酒で火照った顔で、思いつきのように呟いた。あいつが俺の家に入り浸るようになってからは、正月すら帰省してない。

「いんじゃない」

 珍しく話をしてみた俺の内輪話に、あいつは興味を示さなかったように見えたが、口元だけ少し笑っているのがわかった。


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