第2話 それが流儀
「澤田くん、付き合ってください!!」
時は一気に過ぎて昼休み。
なんだかんだでモテる澤田が、クラスでそこそこ可愛いリーダー格の女子に呼び出された。
「なんでああ言い寄られるんだろうねー」
「高木はなんでそんなにアレが気になるの?」
場所は体育館前。
何も言わずにふらーっと手紙を持って教室を出ていったアイツを、高木が何故か尾行。
そして僕も何故か付き合わされ、今は体育館に通じる渡り廊下の、曲がり角の陰に潜んでいた。
「なんでって、普段がああだからじゃん。隣のクラスの水島も、河田や澤田とずーっと、小学生の時から一緒だから、件のバカ以外にも澤田の奇行を見守ってたんでしょ? 不思議じゃない?」
「くだんのばかって……」
真顔でいい募る高木に、ちょっと頭が痛くなってきた。
「……。まあ、馬鹿の話は選択肢によってはアイツの地雷になって、一生物のトラウマ植えつけられちゃうって噂だし」
「なにそれ聞きたい」
「それに、こーいう告白シーンじゃ、澤田の病気はそろそろ発作起こす頃だよ。それが高木みたいなマニアにはいいんじゃない?」
「え、ちょ、ちょっと待って話が見えな――」
「オレ醜い女キライだから」
「……。ふえ!?」
唐突に繰り出された澤田の暴言に、高木が飛び上がった。
見れば、澤田がその女子に、手紙を突き出している。
「これさー、手紙さー、差出人の名前を封筒にも書いてくれないと誰から来たかぱっと見分からないでしょ? おれがここに来たの奇跡ですからね? 袖すりあうもですからね?」
「い、意味がわからないんだけど、え、みにくいって……ブスってどっから出て」
「吉川の字じゃないでしょコレ。一昨日、小倉に書かせてたの知ってるよ」
「えッ!?」
「その時点でブス。オレ、同じブスでもパグと付き合うのがまだマシだと思ってるから、もう放っといて」
「はあ!?」
ほら来た。
そう思いつつも、想像していたものよりも鋭利な言葉に、僕は少し釈然としない気持ちになり、その僕の前でしゃがんで傍観していた高木は、そわそわと落ち着かなくなって僕を振り返った。
「ねえ、ねえどうすればいい? この気持ち、どうすればいい?」
「高木うるさい」
「だって……!! 吉川すごくキレてるし……!! 美人がキレたら凶器だし……!! あいつ殺されない……!?」
「絵になるじゃん。イケメンと美女の修羅場」
「ちょっと待ってお前そんなキャラ? そんなだった?」
「うるさい聞こえない。とりあえず、見てて。あいつの目ってわりと確かだから」
「へ?」と間抜けな声をだし、間抜けに下がった眉尻の高木の背後で「ふざけんなよ!!」と凄まじい怒号が響きわたった。
見れば、告白していた吉川が、一変して澤田に掴みかからんばかりに怒り狂っていた。
「女子にそんなこと言って許されると思ってんのかよ!!」
「可愛いとは、好感をもたせたり、慈しむ思いを抱かせたりする存在です」
澤田の目は、おどけてなんかいない。
整った顔が際立つほど無機的に、澤田は目を冷淡に細め、静かに口にする。
「間違っても、誰かを面白おかしく貶すように差し向けたり、仲のいいフリをして、本人でも分からないくらい些細な嫌がらせを、影で毎日無駄にこつこつ積み重ねたりする人を表す言葉ではありません。かわいーかわいー言われてイイ気になるなよ。見てる人はちゃんと見てるんだから」
「なっ……」
「じゃあね」
ふう、と最後に清々しそうに息を吐くと、澤田は笑ってこう告げて、さっさとその場から立ち去ってしまった。
残された吉川は、力なく項垂れて、僕らがいた物陰とは別のところから、取り巻きらしい女子が数人出てきて、吉川の背中を慰めるようにさする。
「……。そういうこと?」
「さあ?」
特に意味もなくはぐらかした僕に、高木はそれ以上何も言わなくなって、僕らはどちらともなくその場から立ち去った。
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