第62話 ヴィダルの婚約者ローズ
カーテンの隙間から射し込む日の光。
ドタバタと騒がしい音と母と姉達と思われる賑やかな話し声で目覚めた。でも、ついさっきまで姉達のお喋りに付き合っていたので、目が開かない。
「ローズちゃん~♪おはよう。」
「もう昼過ぎよ?」
楽しそうな姉達の声。ホント、タフだな。
今日の私はローズなんだった。
二人にベットから引摺り出される。
「さぁ、まずはエステよ~♪
カリスマエステティシャンを用意してるからっ。」
「はぁ。」
いつの間に作ったのか、私が住んでいなかった間にお風呂と併設されたエステルームができている。そこで、カリスマエステティシャンとやらの女性が3人ニッコニコしながら待ち構えていた。髪の毛先から足の先まで、ピッカピカのビッカビカに磨かれていく私の体。
「はわぁ~。極楽だわぁ~。」
「やぁねぇ。ローズ。湯治場の婆さんじゃないんだから。」
私の隣で化粧水や美容液をつけながら長姉のシャルドネが言った。もう二人のエステは済んでいるようだ。
エステが終わり2階のメイクルームへ。
次姉のカルベネが、ぎゅうぎゅうにコルセットで締め上げられているが、悲鳴ひとつあげたりしていない。
流石だわ~。
「ローズ様。こちらへ。」
メイク担当だろうメイドさんが私を鏡台に促してくれた。
「待って!
ローズのヘアメイクは私達がするわっ!」
突然、立ち憚る姉達。いいから、アナタ達はアナタ達の支度しなさいよ。
「お兄様の婚約者の役だから大人っぽくしなくちゃね♪」
程なくして姉達にされるがままに変身した私、『ヴィダルの婚約者・ローズ』が完成したのだった。
あ、『悪魔から身を守る水晶で作られたレンズ』を目の中に入れて・・・完成!
「え!?ロザリオ!?別人!」
ビションフリーゼが叫んだ。
姿見の鏡に全身を映してみた。
おお~♡♡♡確かに別人だ!
高く結い上げた髪にダイヤをあしらった髪飾り。大人びた上品なメイクに、瞳と同じ濃いブルーのドレスがこれまた素敵!昨日、母が選んだネックレスやイヤリングもキラッキラと燦然と輝く。コルセットも苦しくない。
「5歳は上に見えるわね。」
満足そうな長姉のシャルドネ。
「私のご学友ということにしましょう。」
その隣で更に満足そうな次姉カルベネ。
いつの間にか姉達もドレスアップが終わっている。魔法でも使ったのかしら?
「みんな支度できた?
ヴィダルがもう来てるんだけど・・・。
!!!?」
ドレスルームに入ってくるなり母が目を見開き、息を飲む様に両手で口許を押さえた。
「やだ・・・っ!!女神様!!」
おーい、アナタの方が輝いておりますよ~!?
真っ赤なドレスに着飾った母。豪華な大輪の薔薇が咲いているようだ。
長姉のシャルドネは淡い紫色のドレスで、次姉カルベネは深い紫色。私と違って普段からドレスを着こなしているのが良くわかる。
「それじゃ、いざ出陣!」
「「おおー!」」
母の掛け声でドレスルームを出た。
戦でも始まるの?
「ビションちゃんは今日はシャル姉様か私といてね?」
「わかりました♪ベネ様。」
ビションフリーゼが次姉の腕に抱かれた。流石に剥き出しの肩には止まれないよね。
母や姉達とキャッキャはしゃぎながらエントランス中央の階段を下りる。
「あ、ヴィダルお兄様。」
次姉カルベネが兄を見つけて声をあげた。
兄もこちらに気付いて笑顔を作った。今日は神官の制服じゃなく、紺色の長いジャケットに青いベストを着た貴族スタイルだ。
「ご無沙汰しております。お兄様。」
姉達がドレスのスカートをヒラリと広げて軽くお辞儀をした。
「シャル。ベネ。
相変わらず美しいな。
俺に似すぎて気持ち悪いよ。」
「んまぁ!!私達も気にしてるのに!」
着飾った母と兄と姉二人が揃うとホントにド派手だ。眩しくて目が開けられない!!
目をシパシパさせてる私に兄が近づいてきた。
「リオ。
・・・ヤバいな。
俺、今日リオの事見れないかも。」
「そうでしょう、そうでしょう!
私達の最高傑作ですもの!」
「あ、お兄様。リオの事はローズとお呼びになって下さいね?」
姉達がこれ以上ないくらい誇らしげにふんぞり返る。
「パパにも見せてあげたかったわねぇ・・・。
リオの晴れ姿・・・。」
しんみりと母が呟いた。
姉達が眉根を寄せ、悲しそうな顔で母に寄りそう。
あれ?この家で父って亡くなったみたいになってんの?神殿でピンピンしてますけど?
ハンカチで涙を拭いメソメソする母と姉二人。
「奥様。お時間です。」
「今行くわ。」
執事長が玄関の扉を開けて頭を下げた。
サッと手鏡で髪と顔を整える母と姉達。
「じゃ、ここから私達は別行動だから。
ローズちゃん♡会場でね♪」
母が颯爽と玄関を出ていく。姉達とビションフリーゼもそれに続いた。
さっきの寸劇なんだったんだろう。狐に摘ままれた様に立ち尽くす私。
「ローズ?
俺達も行くか。」
「夢を見ているようですね。ある意味。」
母と姉達の背中を見つめながら、思わず口から出てしまった。あの中でよく暮らしていけてたな。私。
馬車の中でも相変わらず隣に座る兄。顔を見ると腕を組んだまま眠そうにしている。お城までは馬車で30分程かかるし、この揺れに眠くもなる。
「本当に。
夢なら醒めなければいいのに。」
「え?」
聞き返した私の言葉に答えなかったので、兄の顔を覗いてみると寝てしまっていた。
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