第61話 ビアンコ家の女たち

 ビアンコ家はラグドール神殿の町にあるので里帰りと言っても徒歩圏内だ。

 手入れの行き届いた庭園を通る。


「リーオー!」


「お姉様ーっ。」


 玄関前で7歳上の姉、シャルドネが出迎えてくれた。姉に駆け寄る私。

 姉にガッチリ抱き締められてグルグル回される。


「お、お姉様!」


「あ~んっ♡久しぶりね♡」


 そのまま顔を両手で挟まれて、というか、逃げられないようにホールドされて両頬にキスされた。


「お姉様。相変わらず・・・お美しくて、お元気そうで何よりです。」


「ふふっ。リオも元気そうねっ。

 あらっ!ビションちゃん!!」


「シャル様~♡」


 抱き合う姉とビションフリーゼ。グルグル回っている。


「シャルドネお姉様。

 お母様とカルベネお姉様は中ですか?」


「お母様は宝飾品の業者さんとお話し中で、ベネは・・・。」


 地鳴り。


「え?地震?」


 ───と、思ったら凄い勢いで庭園の中を馬車が駆け込んできた。屋敷にぶつかるすんでのところで馬が止まる。


「あ、帰ってきた。」


 馬車からヒラリと降りてくる5歳上の姉カルベネ。


「キャーっ!リオ!!」


 再び抱き締められてグルグル地獄。


「お久しぶりです。カ・・・カルベネお姉様。」


 軽く酔ってしまった。


「あのねっ、あのねっ、リオが来るっていうから、皇都で人気の限定スィーツ直接買いつけてきたの♡

 さ、中で頂きましょう♡」


 馬車からメイドさん達がケーキの入っているだろう凄い量の箱を続々と運び出している。そんなにあったら限定じゃなくなるんじゃ・・・。


「ありがとうございます。」


 私より少し背の高い姉二人に両脇を挟まれて、家の中に連行された。


「お天気もいいし、テラスに行く?」


「いいわね♡」


「あ、あの、その前にお母様にご挨拶を・・・。」


「あ!忘れてた!」


「応接室ね。」


 物凄い力でグイグイと奥に連れていかれる。

 お姉様方、私、逃げも隠れもしませんよ?


 コンコン。


「はい。」


 返事と同時に扉を開ける次姉カルベネ。


「お母様ーー。リオが来たわよ♡」


 扉の向こうに目を見開いた母の姿があった。

 手にしていたギラギラのいかにも値の張りそうなダイヤモンドのネックレスを、徐に床に落とす。


 ────カシャンっ!!


 慌てる宝石商さん。

 見開いた母の瞳から涙が一筋流れた。


「・・・リ・・・リオちゃんっ!?」


 母がフルフルと体を震わせて私に近づいてくる。


「お母様。ご無沙汰しておりました。

 お元気そうで・・・」


 挨拶も言い終わらないうちにガッチリ抱き締められる。

 お願い。普通に家に帰らせて。


「お、奥様?

 こちらのネックレスはいかがなさいますか?」


「買うわ。」


 暫く寸劇に呆気に取られていた宝石商さんに尋ねられて、軽く舌打ちする母。

 すぐに体をくねらせながらこちらに笑顔を向ける。


「リオちゃんのネックレスも~♡選ぼうね~♡」


「パパが何でも買っていいって♡♡♡」


「あ、コレ可愛いです。」


 目映いばかりのキラキラな宝石がならんでいるので、私も何だか楽しくなってきた。


「リオ。これは?」


「これもこれも。」


「あらっヤダ。」


 母と姉達とビションフリーゼが選ぶ宝飾品を取っ替え引っ替え次々に試着される。


「かーわーいーいー♡♡♡」


 私も含めた女子特有の黄色い歓声が部屋中にこだまする。大汗を掻きながら対応する宝石商さん。


「こうなると、全部良く見えちゃうわね。」


「リオちゃんってば、何でも似合うから♪」


「この際全部買っちゃお?」


「いえいえ、1セットで充分ですよ。

 明日以外の公式な場では神官の制服になるでしょうから。」


「つまんないわね。お洒落もできない神官なんか辞めちゃえば?」


 無茶苦茶なことをいう長姉。


「制服をドレスにしたら?」


 動きづらいですよ。それは。


「まぁまぁ、じゃ、とりあえず明日の分だけ選びましょう。

 ドレスはブルーにしたんだったかしら?」


 この中でもまとめ役である母が宝飾品を吟味し、最終的にダイヤモンドの宝飾品に落ち着いた。



 テラスでお茶を楽しむ母と姉達と私。ビションフリーゼは私の肩にいる。


「相変わらず、皆様おキレイですワ~♡」


 ビションフリーゼが母と姉達をうっとりと見つめながら言った。


「ふふっ。ありがと。ビションちゃん。」


 姉達は貴族出身の母に似て、目鼻立ちのはっきりした華やかな顔立ちだ。スラリとした体型と優雅な所作がとても絵になる。兄も母似なので四人が揃うと、輝くオーラが半端じゃなくてド迫力満点なのだ。そうなると、やっぱり私は父似ということか。


「ヴィダルお兄様は明日来るの?」


「はい。夕方に。」


「お兄様にお会いするのも久しぶりね。」


「ヴィダルに似ている貴女達の顔を毎日見てるから久しぶりって感じはしないと思うわ。」


 母が澄ました顔で言った。その表情も兄に似ていて恐い。

 私に笑顔を向ける母。


「リオちゃん、ダル君の婚約者のフリするんでしょ?」


「他に適当な女性いなかったのかしら。

 散々食い荒らしてきたクセに。」


「それを弱味に、結婚せまられても困るからじゃない?」


「あ、お母様にお姉様。

 明日は私の名前をローズと呼んでくださいね?」


 一瞬、固まってこちらを凝視する母と姉達。

 聞こえなかった?


「ね?」


 ビン底眼鏡を押し上げて、もう一度言ってみる。


「「「かーわーいーいーっ♡♡♡」」」


「やだっ何?天使?」


「ほら、ケーキいっぱい食べて食べて♪」


「もう、今からローズって呼んじゃおうよ♡」


 明日の晩餐会でそのノリは勘弁して下さい。

 ───ね?

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