第60話 悪魔から身を守るシリーズ
「リオが本格的な引きこもりになったって聞いたから、心配したよ。」
ここ数日、礼拝と食事、書庫に行く時以外、部屋から出てなかった。何故か誰とも会わなかったし。こうやって父の様に私も『超激レアキャラ!大神官が現れた!!』的な存在になってくのかな。
ラグドール神殿の兄の部屋にはソファー2つとテーブルがある。いつの間にこんな待遇を・・・。
そして、やっぱり私の隣に座る兄。
「ご心配おかけしました。
お陰様で、ペットロスも少し改善したんです。」
「ペットって。」
兄が私を見て溜め息をついた。
「お兄様は式典の警護でラグドールに?」
「今日からラグドール神殿に配属になったんだ。新しい神官達も正式に配属されたよ。」
私が部屋に引きこもっている間に世の中が変わっていたのね~。
「でさ、リオ。
明日、晩餐会があるのは知ってる?」
「料理お菓子食べ放題ですね!?」
「お前の晩餐会の認識ってそれなの?」
拳を握る私を嘆息混じりに見つめる兄。
色気のない妹で申し訳ありません。
キラキラした会場で男性と女性が優雅にクルクル踊るのも素敵だと思いますけど。
「それに明日一緒に行って婚約者のフリをして欲しい。」
「は?」
「こんなこと頼めるの妹しかいないだろ?
シャルとベネは俺に似てるからムリだし。
眼鏡無しのリオなら面が割れてない。」
「はぁ。」
「で、これが明日のドレス。」
クローゼットから兄が濃い青色のドレスを出してきた。地味な私に合わせてくれたのでしょう。
「お兄様。
瞳の色で私が妹だとバレます。」
「あ、それは大丈夫。」
胸のポケットから何かのケースを取り出した兄。蓋を開けると小さな丸い形の青色の・・・。
「ガラス?」
「『悪魔から身を守る水晶』の改良型レンズだってさ。直接眼球に入れられるんだ。」
眼球にっ!?
こわっ!
「試作品は俺も試したから大丈夫だよ?」
「お兄様。何故そこまでして・・・?」
「実はスノーシュー国の3人の王女も来るんだが、どうやら目的がラグドールでの花婿探しらしい。」
「その候補にお兄様が入っているのですね?」
「当たり。」
バレた時のこと何にも考えてないな、この人。でも、『悪魔から身を守る水晶で作られたレンズ』は父の作品だろうから、父もグルなのか。
「わかりました。
晩餐会に顔を出したらすぐ帰りますからね?」
「ありがとう。リオ。
明日の支度は家でしてくれる手筈になってる。」
「了解。」
まずはレンズを目に入れる練習をしなくては・・・。
ビン底眼鏡を外して、液体に入った青いレンズを見つめる。すごく小さいから無くしそうだ。
「はい。鏡。」
左の人差し指に乗せて、右手で右の瞼を上下に開いた。思いの外、近づけたレンズがすんなり目に吸い込まれていく。
「おーっ!」
鏡に映った私の右の瞳がキレイな青色だ。
左の目にもレンズを入れてみる。心なしか顔立ちが華やかに。
「ヤバッ!
青い目のリオも可愛すぎ!」
「ちょっと明日が楽しみになってきました♪」
お菓子もあるしなー♪
レンズを外してケースに戻した。
「名前はどうしますか?私の。」
「そうだな。
・・・ローズは?」
「まぁ、そんなとこですかね?」
明日の晩餐会さえ乗り切れればいいのだしね。
「さて、俺は前任者の引き継ぎとかで社務所に顔を出すけど、リオはまだ引きこもる予定?」
「そうですね~。
とりあえず部屋に戻ります。
ビションと社交マナーのおさらいもしないといけないですし。」
「あー、リオ?
もし何なら、今日から家に行っててもいいぞ?許可なら俺が貰ってくるし。」
「はぁ。」
本気で私を心配する兄の顔。
シュナンも元気になったし、たまには家でゆっくりするのも悪くないか。まぁ、我が家は騒々しいのでゆっくりは無理だろうけど。
「お言葉に甘えてそうさせて頂きます。」
「そっか。明日の夕方に迎えに行くから。」
「ありがとうございます。」
深々と頭を下げてから兄の部屋を出た。
久しぶりだな。家に帰るのも。
自室に戻るとシュナンとビションフリーゼが昼寝をしていた。どうやら、あのまま眠ってしまったらしい。
「おかえり、ロザリオ。
ヴィダル様は何のご用だったの?」
荷物を纏める物音で目が覚めたビションフリーゼが私の肩に飛んでくる。
「明日の晩餐会に婚約者として出席して欲しいんですって。」
「ええ!?
兄妹なのに?」
「フリよ、フリ。」
「ああ、なるほどね。
・・・で、アンタどこ行こうとしてるの?」
荷物を簡単に纏めた所でビションフリーゼが尋ねてきた。
シュナンを見ると既に起きていたようで、ぼんやりと緑色の瞳でこちらを見ている。
「明日の仕度とかで一旦家に帰るのよ。
暫く帰ってなかったし。」
「シュナンちゃんは?」
「ボクのことは気にしなくていいよ。
流石に姑と小姑がいる家までは押し掛けられないからね。」
シュナンが体を起こして立ち上がった。軽く伸びをする。
「て、ことは明日、ロザリオはドレス姿ってこと?」
「そう。お兄様が用意してくれてたみたい。」
「へぇ。」
イタズラっ子の様にニヤリと笑うシュナン。あ、何か企んでる顔だ。
「どうでもいいけど、『魔王ごっこ』はやめてよね。」
「さぁ。それは約束できないかな。」
去り際、私の頬にシュナンの唇が軽く掠めた。部屋の窓から飛び立って行くシュナンの背中を見送る。
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