第59話 ダメです!

 嵐の日から3日間シュナンはずっと寝ていた。時折、寝返りを打つ以外は殆ど動かない。

 神様はお腹空かないのかな。


 アイレン先輩からの差し入れのバーミラのお菓子を食べながら、シュナンの寝顔をぼんやり眺める。


「ビション?食べないの?」


 ビションフリーゼは毎日シュナンの顔を見て溜め息をついているのだ。よく飽きないわね。ビションフリーゼの前にお菓子を並べたお皿を置いた。


「シュナンちゃんが心配でご飯も喉を通らないわっ。」


「お菓子は通るのね。」


 バーミラのベリーのジャムが乗ったクッキーは安定の美味しさだけど、口の中の水分が全部持っていかれる。お茶でも淹れよう。

 ビションフリーゼが私の肩に飛んできた。


「スノーシュー国の王子様が到着するのって明日だったわよね?」


「うん。お着きになるのは、お昼過ぎって言ってたかな?

 夜には歓迎の晩餐会があるみたいよ?」


 ビションフリーゼの目がキラキラだ。


「王子様!!晩餐会!!ステキ!!」


 羽をバサバサさせて興奮している。


「ロザリオは行かないの?」


「お母様とお姉様は行くと思うから、ビション、連れてって貰えば?」


 実は兄との間に二人の姉もいる私。一応、名のある家柄のビアンコ家。貴族出身の母は社交の場によく顔を出しているのだけど、神官ではない7歳上と5歳上の姉がよく連れ回されている。

 私も神官学校に在学中まで何度か出席したけど、美味しい料理と見たこともないケーキやお菓子に囲まれて夢みたいだったなぁ。

 ヤバい。ヨダレが。


「もしかしたら、スノーシューのお菓子も出てくるかも~!」


 別名・お菓子の国であるスノーシュー国には世界中のお菓子職人が集結しているという夢の国だ。


「お菓子よりロザリオのドレス姿見たいなー。」


「ドレスはコルセットがキツいんだよね。」


「ロザリオは鳩胸だから・・・。」


 ビションフリーゼと同時にベットを振り返った。ベットの上に腰掛けてシュナンがニコニコしている。


「シュナン!」


「シュナンちゃん!!

 大丈夫なの!?」


 ビションフリーゼが疾風ハヤテの如くシュナンに向かって飛んでいった。一瞬、見えなかったよ。


「お陰様で。」


 シュナンが立ち上がってヒラリと一周回って見せる。両腕も艶やかな黒い翼も元通りだ。端正な顔立ちと優雅な立ち居振る舞いに目を奪われる。


「良かった。」


「うん。ありがとう、ロザリオ。」


「ん?」


 ホッと安堵したのも束の間。いつの間にか抱き締められている。


「やっぱりもう少し自分の体大事にしなきゃダメだよね。

 目の前のロザリオを3日もオアズケだったなんてかなり地獄。

 あ~、もう。好き。」


「・・・もうその辺にしてもらっていい?」


 耳元で囁く声と、シュナンの手つきがセクハラじみてきたので、待ったをかける。


「ダメ?」


「ダメ。」


 シュナンの事は発情期の雄犬と見なし、これからは少し距離を置こうと心に誓う。


「ご褒美はまたオアズケか。」


 ガックリと項垂れてベットに座り込むシュナン。いやいや、何しようとしてたの。

 ビションフリーゼがシュナンの肩に止まった。長い指が黄緑色の体を撫でる。


「優しいね。ビションちゃん。」


「ビションは別に慰めてるワケじゃないと思うよ。」


 チラリとこちらに視線を向けるシュナンとビションフリーゼ。感じわるっ。


「ロザリオ。冷たいよ。

 きっと、セラフィエルのカラダだったボクの方が良かったんだね。」


「は?」


「やだっ!アタシはシュナンちゃんがどんな姿になっても大好きよっ!!変わらないっ!

 ロザリオったら、カラダ目当てなんてっ。

 何だかイヤらしいワ~。」


「はぁ?」


「この羽がダメなのかな?」


「羽っ翼っ!必須!!セクシーよっ♡」


 つ・・・疲れるし、面倒くさいな。

 何だか良くわかんないけど私が悪者らしい。


「シュナンが変なとこ触るからでしょ。」


 あ、墓穴掘った。

 緑色の瞳がキラリと光る。


「変なとこって、どこ?」


「そーよっ!ドコよ?」


 絶対遊んでるわ、コイツら。

 まとめて焼き鳥にしちゃおうかな。


 コンコン。


 扉がノックされた。

 シュナンがベットに横になって、黒い布を被る。


「はい。」


 扉に近づいて返事をした。


「リオ。

 今いい?」


「ヴィダルお兄様。」


 扉を開けた。

 私の顔を見て兄が微笑む。


「入っていい?」


「ダメです!」


「なんで?」


「今、散らかってて!」


 自分でもわかる。絶対アヤシイ、私。

 眉根を寄せて私を睨む兄。


「いつも散らかってるだろ。リオの部屋。」


「そうなんですが!今日は特別汚くって、今から掃除するとこだったんです!!」


 ヤバい。冷や汗まで出てきた。

 相当、MAXで怪しい。


「また、なんか拾ってきたのか?」


「・・・ニャ・・・ニャオ。」


 ビションフリーゼの改心の猫マネが炸裂した。


「猫か・・・。

 俺の部屋に移動しよう。」


「はい。」


 兄は猫アレルギーなのだ。

 流石、ヴィダルファングラブ会長のビションフリーゼ。心得ています。


「雄じゃないだろうな?」


「あはは。」


 今度のは間違いなく雄だけどね。

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