第37話 ビションフリーゼを怒らないで
早くもコラット神殿研修の3日目が終わり、自室で寛いでいる私とシュナン、ビションフリーゼ。夕食後なのに床にお菓子を広げている。お風呂上がりの私は洗い髪のままチョコレートをひとつ摘まんだ。
「しあわせ~♡」
「大袈裟ね。フフッ。」
ビションフリーゼはシュナンの肩の上で羽繕いをしている。
「シュナンもお風呂に入ってきたら?」
私の言葉に素直に頷いて、シュナンはお風呂場に行った。
暫くして扉がノックされる。
「お兄様かな。」
夜に私の部屋に来るようなこと言ってたっけ。
扉を開ける。
「えっ?」
セイヴァル様が驚いた顔で立っていた。
「あ、っと申し訳ない。部屋を間違え・・・。ええっ!?」
「無粋だな。」
兄が部屋の前に立ちはだかって、後ろ手に扉を閉めるのが見えた。
あ、セイヴァル様は兄の部屋と間違えたのね。
「あれ?ヴィダル様じゃなかったの?」
「セイヴァル様だった。部屋を間違えたみたい。」
ビションフリーゼが私の肩に飛んできて止まった。何事も無かったかの様に髪をタオルで拭きながら、クローゼットの荷物にある魔法書を引っ張り出し、お菓子のある場所に戻った所で、眼鏡をかけてないことに気付く。自分の部屋にいる時くらい伊達ビン底眼鏡は必要ないのだけど、習慣化してしまうとどうも落ち着かない。かけなくても目の届く所にあると安心する。丁度、お風呂から上がったシュナンが脱衣所から眼鏡を持ってきてくれた。
「ありがとー。」
魔法書を閉じて眼鏡を受け取った。隣に座ったシュナンの髪をいつもの様にタオルで拭いてあげていると、再び扉がノックされる。
「リオ。俺。」
「今開けます。」
扉を開けると仏頂面の兄が立っていた。
「入るぞ。」
「はい。」
兄は部屋に入るなりすぐに私の方に振り返って、私の顔の前で人差し指を突き立てた。
「施錠。すぐにドアを開けない。眼鏡。・・・は今はしてるか。」
「すみません。」
「お前に勝てる者はいないが、油断、過信は決してするな。悪魔はいつでもリオを狙っている。」
「はぁ。わかりました。」
兄からいつも言われているのだけど、悪魔から身を守れるほどそんなに強力なのかな。このビン底眼鏡。
それよりデザインなんとかならないのか。
「また寝る前にそんな甘い物食べてるし。太るぞ。」
むう・・・気にしていることを・・・。
兄がお菓子ゾーンを越えてベットに腰かけた。隣に座るように無言で命令されたので、大人しく座る。私の足元にシュナンがやってきて魔法書を読み始めた。
「実は、最近、制服がキツくなってきたみたいで。エヘッ。」
「ロザリオは鳩胸系だから胸とかパンパンだものね。」
「猥褻な目で見るな。セクハラで訴えるぞ。鳥。」
「え?アタシですか??」
ビションフリーゼの言葉にまたしても機嫌が悪くなった兄が、殺しそうな勢いでビションフリーゼを睨み付けた。目を白黒させるビションフリーゼ。
・・・話題を変えよう。
「セイヴァル様とのお話は終わったのですか?」
「セイヴァルは・・・今頃は夢の中だろう。」
絶対何かしたな。この人。
「実は神殿側でもキャルロットを調査してて、それでわかったことがいくつか出てきたんだ。」
「そうですか。」
「一つ目は声を出せないことだけど、これは呪術的なものが関与している。
二つ目は、記憶喪失。呪術に加えて、頭部に受けた外的要因と本人の精神的ダメージによるため元に戻すのは一番困難となるだろう。そして、3つ目の性転換は・・・。」
私の肩にいるビションフリーゼの体が石のように固くなった。兄はそれを白い目で見ている。
「ビションフリーゼの偽証だ。」
一瞬、言葉を忘れてしまう。
「はあ!?
え?シュナンってやっぱり男だってこと?いや、本当は男なんでしょうが・・・。」
自分の名前に反応してこちらを見上げるシュナン。目が合うとにっこり笑ってくれた。
「まあ、正しくは魔法とビションフリーゼの偽証の合わせ技ってところか。」
ビションフリーゼは肩の上で、下手な狸寝入りをしている。ことと次第によってはお菓子、もうあげないんだから。
「それってどういうことですか?」
「意識的か無意識的かはわからないが、キャルロットが自分で性転換魔法をかけているってこと。魔法は効果時間が限られているからな。」
「効果が切れる度に魔法をかけ直すってコトですか?」
「そういうわけじゃないようだ。それまではどうだったかわからないが、コラット神殿に来てからは
ええー?なんじゃそりゃー?
私的には見た目も変わらないから男でも女でもシュナンはシュナンだと思うんだけど・・・。
「ビションはなんであの時、シュナンが女だって言ったの?」
バーミラの宿屋でのことを思い出して、肩にいるビションフリーゼに問いかけた。すっかりシュンとしおらしくなっている。
「だって、男だって判ったらシュナンちゃんはロザリオと離れなきゃいけなくなるでしょ?可哀想になっちゃって。」
「ビション・・・。」
「でも、メスの匂いがしたのは確かヨっ!」
バッサバッサと羽根を羽ばたかせて主張するビションフリーゼ。それはたぶん、私と常に一緒にいたからじゃないの?
シュナンは『ビションフリーゼを怒らないで。』という瞳で見つめてくる。
「とりあえず、皇女側に性転換魔法についてはまだ報告していない。
だが、男と判った以上は密室にリオと二人きりにする訳にはいかない。」
急に立ち上がる兄。言葉もなくその様子を見つめる私達。シュナンが怯えて私の背中に抱きついてきた。
「俺も今日からこの部屋に寝る。」
そうきましたか。
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