第26話 コラットの町
朝、どうにも暑くて目が覚めた。
体の両側からの圧力。
シュナンから抱き枕にされ、窓から不法侵入したとみられる兄から腕枕されている。夜回りが終わったのだろう。
「ロザリオ!!ずっるーい!!
アタシも!アタシもー!」
ビションフリーゼがその様子を見つけて私を
「・・・
だから、お兄様、オウム相手にグーって。いつか動物愛護の団体とかに訴えられますって。
「リオ~?今日はお兄様とずっと寝てような~?」
「いやいや、一人で寝てて下さいっ!
私はもう起きて出発しないと。」
シュナンに手伝って貰いながら、暴れる兄の体を布団でぐるぐる巻きにした。その横でビションフリーゼが幸せそうに添い寝しているから、大丈夫でしょ。
宿の支払いは優しい兄が済ませておいてくれたらしい。それなのに、
荷物を背負って宿の目の前のお菓子屋さんに立ち寄った。見たことがないお菓子がいっぱいで迷っちゃうなぁー♪
悩みに悩んだ挙げ句、大量買いしたお菓子をシュナンのリュックに詰め込んでいざ、出発ー。
ビションフリーゼはまだ来ないけど、そのうち追い付くだろう。飛べるしね。
「あっ!公衆浴場だってー。
入ってく?」
バーミラは温泉の町だから公衆浴場が何軒か点在している。朝風呂入り損ねたからなー。
先に進もうと言わんばかりにグイグイと背中を押してくるシュナン。
「わかってるって。」
次の町に温泉あるかな?
大きな川に架かる橋を渡ったり、森の中を通ったりしたけど、舗装された平坦な道のりを進み、バーミラの町から1週間でコラット神殿下の町コラットに予定通りに到着した。
コラットは金鉱があるので、とても栄えている町だ。夜なのに昼間のように明るい。町の入り口近くの鄙びた宿屋にチェックインした。繁華街が近いらしく、賑わう声やお皿が割れる音など聞こえてくる。
「ロザリオ~。美味しいお酒が飲みたいわぁー。」
「この辺りではリンゴを発酵させたお酒が有名らしいよ。」
「行きましょう、今すぐ!」
宿屋の主人に紹介された繁華街にある食堂に向かった。ひらひらした露出度の高いドレスを着た女の人や黒服の男の人が、通りを歩く人に声をかけて客引きをしている。神官の私に声をかける人はいないけど、シュナンをナンパしてくる男達の多いこと。人目を惹く容姿と高い身長が目立つのなんの。なかなか食堂に辿り着かない。
「おい。子供が来るところじゃないぞ。」
聞き憶えのある声。
「お兄様・・・。」
「ヴィダル=ビアンコ神官と呼べ。」
神官の制服を着こなした兄が、鬼の様な表情で見下ろしていた。
「ヴィダル神官はここで、何を?」
「夜回りだけど?」
「はぁ、そうでしたか。」
もう何をしてもこの人には驚くまい。
シュナンは兄が苦手なのだろう。私の後ろに隠れた。背が高いから隠れきれてないけどね。
「よし、今日は制服だな。
・・・で、何処行く気?」
「宿屋のご主人に教えて頂いた、そこの角の食堂に行くところです。」
私は食堂を指差して言った。
「俺も休憩時間だから一緒に行こう。」
「はぁ・・・。」
絶対嘘ですよね、というツッコミは敢えてしないで、気のない返事をした。
兄とのやりとりの間にも、シュナンに声をかける男の人が後を絶たない。私と兄が一緒だと判るとみんな退散していくんだけどね。
食堂は外の賑わいが嘘のように落ち着いた雰囲気だ。通されたテーブルに私とシュナンが隣合って座り、向かいに兄が・・・私の隣に座った。だから、なんで3人並んで座るのよ。カウンター席でもないのに。しかも、近い!
「明日、神殿に入れるように許可とれたぞ。」
適当に注文を終えたところで神官帽をテーブルの横に置いて兄が言った。
『おねだりの術』の効果すごいな。
飲み物が運ばれてくる。
「これがリンゴのお酒?いい香り♡」
ゴキゲンなビションフリーゼ。
ビションフリーゼと、兄、シュナンの前には同じグラス。私の前には皆とは違う氷の入りのストローが刺さったロングのグラス。リンゴの匂いはする。
「リオはお子ちゃまだからジュースね。」
「お兄様。勤務中じゃないのですか?」
「こんなの酒の内に入らないよ。」
とろけそうな甘い微笑みで長い前髪をかきあげた。妹じゃなければイチコロだったのだろう。残念ながら不発ですよー!
四人で乾杯する。はわぁー、リンゴジュースが濃厚で絶品!
「あれ?シュナンはお酒オッケーなの?」
シュナンのキャラクター的に勝手に、年下じゃないにしても同じ年くらいのつもりでいた私。シュナンを見るとリンゴのお酒を美味しそうにぐいぐい流し込んでいる。
「大丈夫でしょ。お酒強そうだし。」
「俺より上だろ。どう見ても。」
え。えー?!
お子ちゃまだと思ってたの私だけー?
「・・・美形は年齢不詳ですからね。」
ストローを独り静かに啜った。
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