第25話 山の宿のセキュリティ
「アンタね。」
何か言いた気な顔のビションフリーゼ。
兄はまだ私の手を握っている。
私の隣のシュナンは・・・。なにやらベットの上で悶絶している。
「どうしたの?シュナン。」
「被爆したみたいね。」
「ふーん?」
『おねだりの術』は父と兄にしか使ったことないけど、飛び火もするのか。
気をつけなきゃなー。
「お兄様。
夜回り班の方が探してますよ。」
ハッと我に返る兄。
虚ろだった瞳に光が戻った。
「リオ!眼鏡外すな!」
兄はそう叫んで窓を開けた。窓の外に仲間の姿を見つけたようで頷きだけで仲間に合図する。・・・と、そのまま窓から外へ。
「ヴィダル様!ここ2階ですけどっ!」
「お兄様!扉から出入りして下さい!」
ビションフリーゼと私が同時に叫んだ。
「さて、部屋に戻って寝ようか。」
『悪魔から身を守る聖なる眼鏡』をかける。
どうやら兄はこの部屋をチェックインしただけの様子。盗られる様な荷物がひとつもないようなので、鍵は閉めないまま隣の私達の部屋に戻る。
「ん?シュナンは?」
付いてきてるとばかり勝手に思っていたけど、起こすの忘れてたな。
「アタシ、連れて来るわ。」
ビションフリーゼが窓から出ていった。
兄の部屋の窓も開けっ放しだったっけ。
ビションフリーゼにお任せして歯磨きをした。寝る前にもう一回温泉にも入りたいな。
ガタッ
ガタン!!
ドン!!
部屋の外から大きな音がした。
まさか、シュナン倒れた?
ドアを開けると、部屋の前の廊下に大きな体の男の人が3人寝ていた。酔っ払っているのか、廊下中に酒の臭いが充満している。
「部屋わかんなくなったのかな?」
暫くして宿屋の従業員らしき50代くらいのおじさんが慌てて階段を上ってきた。たぶんこの人がオーナーだろう。
「お客さん!
大丈夫ですか!?」
「私は大丈夫ですけど・・・。」
「あれ?さっきまで1階にいたお客さんだな。この人達泊まり客じゃないんだけど。」
泊まり客じゃないのになぜ私達の部屋の前にいたんだろうか。私達の部屋は角部屋なので、それ以上奥に部屋はない。
「お客さんのお連れさん、ものすごい美人さんだったから、覗きにきたのかもなー。」
明るく笑うオーナー。確か元神官だっけか。
え?セキュリティ大丈夫???
愛想笑いの私。
「不法侵入として警備隊に連れてってもらうか。」
宿のオーナーは男達の容態が大したことないと判断したのか、手際よく(何処から取り出したのだろうか)縄でぐるぐる巻きに縛りあげた。
そのまま、男の一人をズルズル引摺って運ぶ。
「おーい。警備隊に連絡してくれー。」
階下の従業員に声をかけている宿のオーナー。わたしも残りのふたりの足首を持って、ズルズル引摺り階段まで運ぶお手伝いをした。
オーナーは私に礼を言った直後、躊躇なく3人を階段から転がした。「ぐえっ!」とか聞こえる。結局、何だったんだろう。あの人達。
でも、こういうことがあったのは初めてじゃない。山の中の宿屋でも、朝起きると部屋の外や窓の外にガラの悪い感じの男が数人寝ていることがあったのだ。
「ロザリオ?」
兄の部屋の扉が開いた。
目を擦って眠そうなシュナンとその肩にビションフリーゼ。階下がガヤガヤしているので、警備隊が到着したのだろう。
「なんか、温泉気分じゃなくなったなぁ。」
今度こそシュナンとビションフリーゼと一緒に部屋に戻った。本でも読もうと荷物を開ける。見覚えのないタイトルの本が数冊。
しかも、外国語の本だ。
こんな本あったっけ?
この文字は見覚えがある。
西の方の国の文字、スノーシュー語だ。
その本と読みかけだった私の本を手にとって、ベットに横になりスノーシュー語の本をパラパラ捲ってみる。綺麗な挿し絵の入った物語だ。
ふと、視線に気づいて顔を上げると、シュナンがじっとこちらを見ていた。
「どうしたの?」
シュナンは首を振って私の隣に寝転ぶ。
ベットの柵に停まってウトウトしているビションフリーゼが何か寝言を言っている。寝ているときも賑やかなオウムだわ。
私はスノーシュー語の本を閉じて、読みかけの本の続きを読み始めた。
心の清い美しい女の子が、魔法で獣の姿に変えられた王子様と恋に落ちる異国の
絵本では読んだことがあるけど、翻訳された原作を読むのはとても新鮮で密かなマイブームだったりする。絵本より残酷でありえない設定があるんだけど、フィクションだと思えば気にならない。
かつて我が儘で傲慢だった王子様が、獣の姿に変えられて魔法が解けるまで何十年も何百年もそのままだ。現在のラグドールにそんな魔法は存在しない。
これは御伽噺の話だけど、私の知らない魔法もこの世界にはたくさんあるんだろうな。
読みかけの本はまた途中になるけど、今日はもう寝よう。
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