第21話 この状況は・・・?
大浴場は誰もいなくて私達の貸し切り状態だった。脱衣場で服を脱いでタオルを手にした。シュナンがモタモタしていたのでお先に失礼!
大浴場と言っても5人くらい入れば結構ギュウギュウな気がするなー。
身体と髪についた汗を流して、頭にタオルを巻いて温泉に浸かった。乳白色でとろみのある源泉が温泉キターって感じで一日の疲れが一気に取れそう。
はぁーっ極楽~!湯加減も私好み♡
あ、でもこのまま寝そうだから長湯厳禁だな。
シュナンが身体を流して湯船に入る音がする。眼鏡が曇ってよく見えない。ビン底眼鏡をカチューシャのように頭にかけた。
ふぅーっ。
というシュナンの息遣いが聞こえる。
いつもは私にくっついて来るのに、こっちに来ないところをみるとお風呂はゆっくり派?
湯気の向こうのシュナンにザバザバお湯を掻き分けながら近寄っていくと、シュナンが目を丸くしていた。
何?その反応。熊か猿だと思った?
この温泉、あったまりの湯だなぁ。
温度はそれほど高くないはずなのにもう熱くなってきて
「あっつぅ~!」
堪らず浴槽の縁に腰掛けた。
「ねぇ、見て見て?
めっちゃ肌ツルツルになった気がする!」
腕のスベスベ感に感動してシュナンに向かって言ったが、シュナンはこっちを見ずにただ頷いた。
何だか様子がおかしい。温泉キライだったかな。
「あーホントに逆上せそう!
シュナン?
私もう上がるね?」
肩まで温泉に浸かったままシュナンが頷いた。こっちを見る視線に気付いて振り返るんだけど視線を反らされる。
何?てか、逆上せるよ?
モヤモヤしたまま大浴場を出た。
着替えを終わった頃にシュナンがお風呂から上がったようだったので、脱衣場でちょっと待つことにする。宿のサービスか、用意してある水差しからコップに水を注いで一気に飲み干した。
生き返るー。
脱衣場の扇風機に顔を当てて涼んでいたら、いつの間にか着替えを済ませたシュナンが、いつも通りニコニコしながら立っていた。
何だかいつもと違うような・・・。
私と目が合うと、温泉で温まって上気していた顔がますます赤くなり、バターンと倒れてしまったのだ。
「ええっ?シュナン!逆上せた?」
「・・・。」
息はあるが、反応はない。
シュナンを背負って急いで部屋に戻る。
「ビション!
シュナンが逆上せちゃった!!」
「きゃーっ!!シュナンちゃんっ!」
バッサバッサとビションフリーゼが飛んできた。シュナンをベットに寝かせて首もとを緩めた。バッサバッサ必死に扇ぐビションフリーゼ。山の中で私にはやってくれなかったのに。
うーん。あなたのご主人様は私じゃないの?
部屋の窓を開けると心地よい風が入ってきて気持ちいい。6日間かけて越えてきた連なる山々が夕日に照らされて赤く染まっていくのが見える。
暫くしてシュナンが目を開けた。
良かったー。
「疲れと眠気で逆上せちゃったのね。
お水飲める?」
まだボーッとしてる顔の汗をタオルで拭いてあげる。
「ロザリオのダイナマイトバディーにビックリしたんじゃないの?
ホント破壊力半端ないからね。
殺人級だわ。可哀想に。」
「何よそれ。てか殺してないし。
第一、女のコ同士でそんなことあるわけないじゃん!」
可哀想って何さ!!
顔が赤いままのシュナンは私からタオルを取ると、まだ眠かったのかそのまま顔を覆ってしまった。
具合悪いのに耳元でわぁわぁ煩かった?
「私も少し横になろうかな。」
安心したら眠くなってきた。シュナンの隣のベットに入るとすぐに寝そうになる。
うつらうつらと微睡みの中、私のベットに誰かが入ってくる気配が。
「・・・シュナン?」
いつの間にかすっかり夜になっていた。1階のレストランからだろうか、大勢の話し声や笑い声が聞こえる。
そういえば、お腹空いたなぁ。
顔に柔らかい髪がかかる。
髪の毛を払おうとする両腕を、上から押さえ込まれる形で身動きできない。
ん?
目を開けると、月明かりに照らされた紫色の瞳が見つめていた。
・・・この状況を把握するのに頭が追いついていかない。
呼吸するのがやっとで言葉が出てこない。
目だけがキョロキョロ動かせる。
シュナンの綺麗な顔が目の前にある。結っていない長い黒髪が私の顔にかかっていて、両手を押さえられていて・・・。
私、襲われかけている?
え?これって、女子の力なの?
「いやいやいやいや!
待って待って!
何?この状況!?
てか、ビションフリーゼは!?」
ビションフリーゼの姿がない。
あいつー待ちきれなくて、私達を置いてお酒飲みに行ったんじゃないでしょうね~?
すっかりパニックで頭の中が整理できない。
恐る恐るシュナンの顔を見ると何か言おうと唇が動いた。
『おなかすいた』
呆気に取られている私を抱き起こして、クスッと笑うシュナン。
普通に起こせや。おい。
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