第2章

第20話 山の温泉宿

 山越え6日目。

 続く見飽きた景色に感動はない。

 ひたすら山道を前に進むしかないのだ。


「もうすぐ麓の町に着きそうだね。」


 私は手近な岩に腰掛けて水筒に口をつけた。その隣にぴったりくっついて女のコバージョンのシュナンが座る。暑いんだけどなー。

 迷惑気に視線を投げたつもりだったのに、キラキラ笑顔で返されてしまった。安定のキラキラっぷり♡思わずこちらも笑顔になる。


「美味しい麦酒が飲みたいわぁ~。」


 お酒に目がないオウムのビションフリーゼが、私の肩の上に乗りバッサバッサと羽根を鳴らした。


「あ、ビション。それ涼しくて気持ちいい。」


「くっついてるから暑いんでしょ。」


 ビションフリーゼが翼を閉じてしまったので、無風状態になる。ケチー。


「あと、2時間ってとこだから、頑張るのよっ!」


「それくらいならもう一気に行けるね。」


 隣にいるシュナンを見た。白い蝶々をぼんやり目で追っている。

 その美しい横顔に見蕩れる私とビションフリーゼ。もう呼吸をするのも忘れちゃうくらいウットリ♡

 私の視線に気付いて笑顔になるシュナン。

 最近、熱っぽい潤んだ瞳で見つめてくるのは気のせい?そういえば、私の持ち物でハマってる恋愛物の本とかも読んでたりするから影響されてんのかな。このままキスでもされるんじゃないかと思ってドキドキしちゃう。

 ん?私も恋愛物の本に影響されすぎか。


「さ、さあ!

 もう出発しよ!」


「顔赤いわよ。ロザリオ。」


 ビションフリーゼの声を無視してまた山道に戻った。ホント歩きやすい山道で良かった。

 心なしか新しく整備した感じもするけど。



 山道が終わり、山の麓の町バーミラの入り口に到着した。のどかな宿場町といった感じで、この辺はシンガプーラと変わらない。


「この辺りは温泉が有名らしいわよ。」


「えーっ入りたい!」


「はいはい。まずチェックインしてからね。

 あ、荷物とか金目の物にくれぐれも注意。」


「わかってる。

 でも、神官の制服着てるのに手を出してくる人なんかいるの?」


「若い神官は狙われるわよ。」


「ふーん。」


 まぁ、盗られて困る物はお金くらいかな?

 宿屋はたくさんあるけど、私達が泊まるところは神殿推薦の宿と決まっている。

 支払いは自腹だけど。

 今回はなかなか立派な宿屋。1階がレストランで2階と3階が宿泊施設となっている。

 いつもはこぢんまりした鄙びたとこなのに。


「ここの主人が元神官らしいわよ。」


「へえ。」


 ビションフリーゼの言葉も上の空にもう心は温泉気分♪宿の案内図に1階の大浴場を見つけた。わぁ!楽しみ!

 チェックインを無事に済ませて2階のツインの部屋に辿り着いた。荷物をとりあえず置く。テンションMAXな私と眠そうなシュナン。


「アタシ、シュナンちゃん見てるからお風呂行ったら?」


「うんっ。ごめんね、ビション。」


 お風呂セットを抱えていざ、出陣!

 というところで、シュナンが私の袖を引っ張る。


「シュナンもお風呂行きたいの?」


 コクリと頷くシュナン。たぶん寝ぼけている。


「一緒に入ったらいいんじゃないの?」


 ビションフリーゼが羽根を伸ばして欠伸をしながら言う。


 は?


「だって、女湯と男湯って別れてるから無理だよ。」


「ロザリオ、男湯に入るの?」


「な・ん・で・よ?」


 言った後でハッとする私。


 ・・・沈黙。


「ロザリオ。

 確認するけどさ、シュナンちゃんのこと男の子だと思ってたの?」


 ビションフリーゼとシュナンの顔を交互に見る。

 は?!


「えっ?

 待って待って!!

 えっ!?なに!?

 ビションって男の人好きでしょ!?」


「アタシは綺麗なコが好きなのヨ。」


 ビションフリーゼの好き好きアピールのせいですっかり騙されてたってこと?

 改めてシュナンを観察してみる。


 顔は整っていて中性的なので判別できない。

 身長は高いけど、まあ、このくらいの背丈の女の人いるしな。

 喉仏はない。

 服のせいなのか胸はペッタンコ。

 シャワーとか着替え見てるビションフリーゼが言ってるんだから、シュナンは女のコなのだ。


 ビションフリーゼのラブ反応に惑わされてたわ~!あーもう女のコにしか見えない。

 誰よ?女装とかいって遊んでたの!!

 ビションフリーゼの冷めきった視線が痛い。


「シュナン。」


 もう謝るしかない。

 眠そうなシュナンと正面から向き合う。


「ごめんね。

 一緒にお風呂行こうね。」


 状況を把握してない様子のシュナンがまたもやコクリと頷いた。たぶん寝惚けてるな、シュナン。


 女のコにドキドキしてたワケね。私。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る