第19話 お世話になりました

 明け方、まだお姉様達と盛り上がっているビションフリーゼを置いて自室に戻った。

 シャワーを浴びる気力もない。

 ね・・・眠い。


 シュナンは珍しく起きていた。

 私もビションフリーゼもいなかったから不安だったのか、ドアを開けてすぐに抱き締められる。

 うん!相変わらず体温高いね。

 ・・・ますます眠い!


「シュナン・・・。

 寝よう。

 あー、でも歯磨きしたい。」


 声をふりしぼる。

 お菓子と葡萄酒で口の中がベトベトする。

 ついでに『悪魔から(以下略)眼鏡』を外して顔を洗うといくらか目覚めた。

 気がしたが、無理。

 やっとの思いでベットに辿り着いて横になる。

 数時間後には出発なのに大丈夫かな?



 起床時間には間に合わなかったけど、朝食時間にギリギリ滑り込んだ。

 お姉様神官達はもういつもの席に着いていた。私が部屋に戻る時、リザ先輩の部屋に葡萄酒の空き瓶か3本転がってた様な・・・。どんだけタフなのかしら。


「おはようごさいます!」


「おはよー。」


「おはよ。何時に発つの?」


 サニー先輩の肩にビションフリーゼが停まっていた。コックリコックリ揺れている。


「朝食が済んだら出発します。」


「シンガプーラを出ると一気に治安が悪くなるから気をつけてね。」


 一番お酒を飲んでいたはずのベニ先輩。そうは思えないほどきちんとしている。


「女子は優遇すべきだよ。ホント。」


 サニー先輩がステーキをモリモリ食べながら言った。ビションフリーゼはまだ寝ている。


「そうね。せめて馬は欲しいわ。」


 手鏡で顔をチェックしながらリザ先輩。

 美しい顔に疲れは見えない。


「ビションちゃんじゃあねぇ。

 話し相手くらいだもん。アハハ。」


 サニー先輩の声にビションフリーゼが目を覚ました。なんでか悪口にって敏感だよね。



 食堂で先輩神官達にお別れの挨拶をした。

 出発の前に神官長室へ研修終了の挨拶に。指南係だったアイレン先輩も一緒だ。

 アイレン先輩はじめ、緒先輩方には大変お世話になりました。


「これからまた大変な旅になるが、ロザリオ=ビアンコ神官ならきっと乗り越えられるだろう。

 また会える日を楽しみにしてるよ。」


 カッタ=クルガン神官長から研修の終了の書面と労いのお言葉を頂いた。最初は恐い方だと思ったけど、クルガン神官長も優しい方でした。


「クリシュナ神の御名のもと加護の在らんことを。」


 ありがたや~。



 礼拝堂に行ってクリシュナ神様にご挨拶しなきゃ。ビションフリーゼと美形なクリシュナ神像の御前で目がハート♡♡

 ホントにシンガプーラ神殿に正式配属ならないかなぁー。そしたら、毎日クリシュナ神様にお会いできるのに。


「ごめんね。見送り僕だけで。

 これお弁当。」


「いえいえ!とんでもないことです!

 アイレン先輩もご多用なのにありがとうございます!」


 最後の最後までいい人。


「じゃ、気をつけて。クリシュナ神のご加護の在らんことをお祈りしてるから。

 ヴィダルにもヨロシクね。」


 ありがたや~。


「はいっ!本当にありがとうございました。

 皆様のご多幸をお祈りしております!」


 深々とお礼をして一週間前に上ってきた超ロング階段を下り始めた。

 少し前に神殿を出たビションフリーゼとシュナンと程無くして合流することができた。

 シュナンちゃん女のコバージョン。襟で首輪が隠れるタイプの服だ。


 下りって楽な様に感じるけど、次の日の筋肉痛が酷いんだよね。太陽が翳っているからそれだけがせめてもの救いだ。


 次のコラット神殿までは2週間の予定。

 泊まれる所を確認しながらの旅路としては最短ルートだと思う。

 新米男性神官なら野宿とかもアリなんだろうけど。私は基本的に教会か宿屋に泊まりたいな。

 というか、うちの父が野宿を許さないだろう。


 超ロング階段を下り終えた頃にはもう昼過ぎ。ビションフリーゼと喋りながらなので、サクサク進んでいく。日暮れには町外れの宿屋に着きたいな。


「町でシュナンの服買わなきゃね。

 ヒラヒラしすぎだし。」


「そうね。」


「お菓子も見たいな。」


「また~?アンタの荷物殆んどお菓子じゃないの。」


「・・・シュナンのおやつ。」


 シンガプーラの商店街。

 あまり活気がなく殆ど通りを歩く人がいないのが特徴としてあげられる。まず、洋品店と防具屋が一緒になっているお店に立ち寄った。

 着せ替え人形の様に私達に遊ばれるシュナン。散々、店内を引っ掻き回した挙げ句に何着かシュナンの服と防具とリュックサックを購入した。

 武器屋にも寄ったけどシュナンが気に入ったのがなかったから冷やかしだけ。


「保存食とかお菓子とか買わなきゃ。」


「アタシのご飯もね。」


 食糧の調達もワイワイ。

 あちこちのお店で色々買い揃えて、シュナンのリュックサックに押し込んだ。


「満足~♡」


「なんか暗くなってきたわね。

 宿に急ぎましょう。」


 時間を忘れて買い物しまくってしまったので、もう夕方になっていた。

 しかし、シンガプーラの商店街の意外な品揃えの良さに驚く。宣伝しなきゃ。

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