第18話 シンガプーラの夜更け

 シンガプーラ神殿での研修最終日を滞りなく無事に迎えることができた。

 神殿周辺の町の見回りなんだけど、あの超ロング階段を往復しただけで一日が終わってしまうので流石に乗り物を使う。人が乗れるように交雑と訓練を重ねた超大型の鳥カルラだ。凄い重力と風圧がかかるので乗る方も訓練が必要となる。ゴーグルと命綱必須です。

 カルラに乗って国境付近に張られた結界をチェックしたり、町の住人と雑談して親交を深めたりで一日があっという間に終わった。


「明日には出発なのね。寂しくなるわぁー。」


 お姉さま神官達と研修最後の夕食。


「私も寂しいです!

 仲良くしてくださり、ホントにありがとうございました!」


 おもわず涙腺が弛む。


「あ~あ、ロザリオ、シンガプーラに正式配属されないかなぁ?」


 亜麻色の髪のサニー先輩がサラダをつつきながら言った。


「今年の研修生が9人でしょ?

 神殿に一人ずつ配属されるとして。」


「確率的に9分の1か。

 あ、でもさー」


 リザ先輩が思い出したようにポンっと手を打つ。


「ロザリオパパ的には娘を手元に置いておきたい感じだよね。」


「やっぱりラグドールかぁ。」


「ロザリオ、優秀だしね。」


「私は断固拒否したいところです。」


 鼻息を荒くした私を見てクスクス笑うお姉さま神官達。


「お父様に愛されてるから今のロザリオがあるのよー。」


 そういうものなのでしょうか?


「次はコラットだね。」


「ヴィダル様~♡」



 伝説の騎士セラフィエル様が不在の今。

 二分していた女子の憧れの的は私の兄ヴィダルだとお姉さま神官に聞いた。あんな女好きの遊び人でもモテるのね。所詮、顔か・・・。


「てかさ、ロザリオって眼鏡外すとイケメンお兄様に似てるの?」


 サニー先輩が唐突に尋ねる。


「他の兄弟は母に似てますが、父はよく『ロザリオはパパ似だ』と言っています。」


「あ~。言いそうだね。パパさん。」


 納得したようにリザ先輩。

 唯一うちの父を見かけたお姉さまなのだ。


「前から思ってたんたけど、ロザリオってどんだけ目が悪いのよ?

 レンズの厚さヤバイよ。」


 金髪眼鏡のベニ先輩。

 ベニ先輩は私と同じ眼鏡なのに色気が半端ないです!


「実はですね、この眼鏡は父から授かった『悪魔から身を守る聖なる水晶でできた眼鏡』なのです!」


 私としてはチャッチャラ~とかババーンっみたいな効果音が欲しいところだった。

 暫しの沈黙。


「お姉様にちょっと見せてくれない?」


 リザ先輩が手を差し出す。

 私も信用していないんですけどね。

 リザ先輩の手の平に『悪魔から身を守る聖なる水晶でできた眼鏡』を乗せた。


「これは・・・!」


 身を寄せ合うお姉様達。


「・・・普通のガラス?」


 お姉様達が私の顔を二度見三度見する。


「人前では外すなと言われているのです。

 後々、面倒臭いので返して下さい。」


「・・・ごめん。ロザリオ。」


 神妙な表情で私に『悪魔から身を守る聖なる水晶でできた眼鏡』を返すリザ先輩。

 ええっ!!?


「でも、悪魔から守ったから。私達。」


 キョロキョロしながら青い顔でベニ先輩がヒソヒソ言う。


「みんな、わたし、もう無理かも・・・かっ!」


 アーモンド型の黒目をキラキラさせてサニー先輩が叫ぶ。

 ・・・のをリザ先輩とベニ先輩が同時に口を塞いだ。


 食事も途中なのにお姉様3人に食堂の外に連れていかれる。


「ロザリオ。今日はとことん話し合いましょう♪」


「お菓子パーティー♡」


「はいっ!」


 嬉しいなー♡

 てか、シンガプーラ神殿に配属希望出しちゃおう☆



「確認するけど、アイレンとかの前で『悪魔から身を守るなんちゃら眼鏡』外してないよね?」


 リザ先輩の部屋。

 シンガプーラ女子会です!

 リザ先輩の猫ちゃんがとても人懐こくて可愛い♡


「基本、人前でこの眼鏡外すと何処からともなくやってくるんで、外せないです。もう私の一部です。」


 私の言葉に何かを確信したように頷く3人。


「セーフ。」


「あっぶなー!」


「でもさ。ロザリオパパの気持ちわかるわー。」


「予想を上回る美人さんだもん♡」


「悪魔って言うより悪い虫から守る眼鏡ってことね。」


 お菓子の袋がどんどん開けられていく。

 女子会最高☆


「あ、あの取っておきの開けよっかな。

 ぶどう農家さんに貰ったヤツ。」


 リザ先輩がクローゼットから緑色の瓶を取り出した。


「美女は得だよね。」


「オヤジキラー?」


「葡萄~♡好きです!」


 お菓子と猫ちゃんにメロメロな私。


「ロザリオは、一口だけだからね♡」


「今日位いいんじゃない?」


 琥珀色の飲み物をそれぞれのグラスに注ぐリザ先輩。

 液体がグラスのなかでとろりと揺らめく。


 芳醇な香りにつられて、それまで肩に止まっていたオウムの剥製・・・、ビションフリーゼが翼を広げた。


「アタシも飲む~!!」


「オウムちゃんイケるクチだねぇー♪」


 あ、これお酒か。

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