第12話 金色の瞳は無力でした
心配そうに私の顔を覗き込むシュナンに私は微笑んだ。ニッコリと笑顔を返すシュナンが両手で私の頬に残る涙を拭う。
何度見ても癒される可愛い笑顔。思わず見惚れてしまう。
「顔、近いわよ。アンタ達。」
「わっ!ビション!オハヨ!!
シュナン、背中見せて。」
シュナンの背中を確認すると思ったより出血していない様子。
治癒の魔法をかけてホッと息をつく。
6時か。起床時間。
朝食までまだ時間がある。
腕の血を流すついでにシャワーを浴びた。
あっ・・・、なんか指先から腕の方まですっごい焦げてる。
「あちゃ~っ!アンタ障気にヤられてるじゃないの。」
「障気に充てられるとこんなことになるんだね。」
「呑気なこと言ってないで・・・。
ホラ、聖水かけとかないと壊死しちゃうわよ。」
神官の制服が手袋着用で助かった。
まだ跡が残ってる手の焦げがなんとか隠せる。
身仕度を整え、『悪魔から身を守る聖なる水晶で作った眼鏡』をかけて食堂に向かう。
この眼鏡外してたから夜中みたいなことがおきたのかな?・・・まさかね。
普通は食事の時は部屋着のままなので、制服の私が少し浮いた感じになる。
「おはようございます。先輩方」
「おはよ。ロザリオ。
てか、あなた手袋したままご飯?」
「おはよう。あはは。潔癖症?」
「おはよー。よく眠れた?」
食堂に入ろうとしたところちょうど後ろからお姉様神官達がキャピキャピしながらやってきたので、一緒に4人掛けのテーブルにやってきた。どうやら窓際の奥の一角が女性神官の定位置らしい。
「それがあんまり寝られなくて、早起きしすぎちゃって。」
「だから制服なのね。」
カフェオレをひと口飲みながらリザ先輩。
「ロザリオってオウムと仔犬飼ってるんでしょ?見たいなぁー♡」
サニー先輩が目をキラキラさせながらおねだりポーズをしてきた。
可愛いすぎです。先輩。
「あー。そうですね。
オウムはいいんですけど、ワンコが人見知りで。」
「ふーん。そうなんだ。
オウム見たーい♡」
「オウム、喋るの?」
ベニ先輩も目をキラキラさせる。
「機嫌がいいと結構喋りますよ~。」
女性相手だとホントに無愛想だからな。
あのオカマオウム。
先輩方に会わせるときにはお兄様の持ち物を貢ぎ物にして愛想よくしてもらおうかな。
「わたし達、3人とも猫飼ってるんだよ~♡」
「見たいです~♡」
「「「「ネコーーーーっ♡♡♡
好きーーーー♡」」」」
♡ハート♡に包まれる食堂一角。
かなりのボリュームで話しているのだけど、見て見ない振りをする男性神官達。
誰も注意したり文句が言えないらしい。
女性の方が圧倒的に少ないのに何故か女性の方が強いよね、こういう時。逆に女性が多い場合、オンナを出すから不思議に女性の方が大人しくなる傾向が。私の持論です。
「癒やされるよね~!
実は男子部屋にも密かに猫ちゃんいるんだよ~!」
ビクッとする数名の男性神官。
自分に矛先が来ないように身を小さくしてる。
「わたし、猫ちゃんがいなかったらこんな仕事、即行辞めてるよ」
肉の揚げ物といったガッツリ高カロリー朝食を食べる男前なお姉様方。
「「わかる~。」」
「拘束時間の割りに給料安いし。」
「あ、でも、殉職すれば階級上がるから親孝行にはなる?あはっ。」
「だーかーらー!殉職するような争いもないじゃん!!」
頼もしいお姉様先輩達。
先の大戦も知っているし当然だが私より経験値が高い。改めて、自分の無力さに気付かされる。このまま3人に全てを話せたらどんなに楽になることだろうか。
朝食の残飯を頂戴して自室に戻る。
シュナンはまだ寝ていた。
ビションフリーゼが羽音をたてずに肩に乗ってきて、バスルームに行くよう首で合図した。
シュナンを起こさないようにバスルームに滑り込みドアを閉める。
「ヴィダル様に伝令を送ろうかと思うんだけど。ロザリオ的にはどう考えてるの?」
私ひとりの手には負えないことはわかっていた。協力者を絞り込んではいるものの決め兼ねているのも事実だ。
あの心配症なお兄様に助けを求めれば直ぐにでも、魔法陣を使ってこちらに来てくれるだろうこともわかっている。
でも、その後のシュナンはどうなるのだろう。
幼い時に飼っていた仔犬を思い出す。
「あのコ・・・。
シュナンはあのコみたいにならない?」
私の言葉にビションフリーゼの目が大きく見開いた。
何で忘れていたの?
私の金色の瞳から涙が溢れる。
幼かった私は断片的にしかその光景を憶えていない。
厳重な檻に入れられ大勢の大人に囲まれて連れて行かれる仔犬。
あの仔犬の名前も『シュナン』だった。
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