第11話 黒、黒、黒、更に黒。

 私とビションフリーゼの手で立派なレディに変身したシュナンが立ち上がった。くるぶし位あるロングスカートのはずが膝丈のワンピース(笑)をヒラリ。

 自分達の最高傑作に大満足な私達。

 このまま連れてお出かけしたいなー♡

 ちょっと身長はあるけど、ヴィダルお兄様からしたらスカートを履いている人はみんな女子だから大丈夫だろう。


 化粧という繊細な作業をしたせいか、シュナンのキラキラを見すぎたせいか、凄く目が疲れてしまった。

『悪魔から身を守る聖なる水晶で作った眼鏡』を外して文机の上のトレイに置いた。


「あ、シュナンのお化粧落としてからじゃないと寝られないね。」


 振り返った私の顔を見て、シュナンの顔が一瞬強張った気がした。


 化粧を落としてからもピッタリくっついて離れないシュナンと謀らずもベットに一緒に寝ることになり、またしても抱き枕と化す私。

 お目付け役オウムのビションフリーゼが目を光らせている。

 異性と同室どころかこんなところをお父様にでも見つかったら卒倒しちゃうわね。きっと。ぼんやりとシュナンの旋毛つむじを眺める。


「そういえばさ、ずっと前にも仔犬を拾ったことがあったよね。シュナンみたいに黒い毛並みの。

 ねぇ、ビション?」


「・・・・。

 あ~。よく憶えてるわね。

 ロザリオが5歳くらいじゃなかったかしら。アタシもビアンコ家にお世話になり始めだったから、あんまり憶えてないけどね。」


 あのワンちゃんも凄く私に馴ついて可愛かったなぁ。

 オスだからっていう理由だけでお父様とお兄様に飼うことを猛反対されたっけ。(汗)

 シュナンはあのワンちゃんと重なるのかも。初めて会った気がしないし、前から一緒にいるみたいにお互いの距離感が近くても圧迫感がゼロだ。


 てか、あれ?

 何で今の今まであのワンちゃんのこと忘れていたんだろう?

 名前は何てつけたんだっけ?

 あのコいつからいなくなったんだっけ?


「ねぇ、ビション・・・。」


 ビションフリーゼに聞きたかったけど、急に瞼が重たくなってそのまま眠りの世界に吸い込まれてしまった。

 シュナン、体温高すぎ。




「ーーーーーーーッ!!!」


 闇を裂く、声にならない悲鳴な様なものが聞こえて飛び起きた。

 まだ深夜だと思う。暗くて時計の針が確認できない。

 私の腰にしがみつくシュナンの腕の力が強くなった。


「・・・ガッ!!

 ーーーーーーーッ!

ハァ、ハァッ」


「シュナン?」


 言葉にならない悲鳴。

 夢にうなされているのか、シュナンの額の辺りを触るとビッショリと汗をかいているのがわかった。


 ふと、気配を感じてギクリとする。

 鳥肌。全身が一気に総毛立つ。


 ベットの傍に

 シュナンの背中あたり。


 コレハ、ナニ?


 暗闇にだいぶ慣れてきた目を凝らした。

 シュナンの背中の方にんじゃない。シュナンの背中から


 黒い翼の様なモノ?

 シュナンの皮膚を突き破り出てきた為か、黒い翼の様なモノが血で濡れているのがわかる。


「ーーーーッ!」


 苦痛に歪むシュナンの顔が見えた。

 メリメリッと生々しい軋む音を挙げながら黒い翼がどんどん成長していく。


「ロザリオ!!!」


 ビションフリーゼの声に金縛りにっていたかのような身体の緊張が一気にほどける。


「ダメっ!!!」


 でも、どうしたらいいかわからない。

 引っ張り出す?押し戻す?


 この世に出してはいけない気がして、無我夢中で黒い翼の様なモノを押さえつけた。バチバチと両手に電流が走って焼けるように痛い。

 無意識に神官学校の授業で習った封魔の呪文を口にしていた。

 黒い翼の様なモノはあらがおうとしているのか、電流を強くする。


「ーーーー!!」


 更に苦しそうに叫ぶシュナン。

 ごめんね。

 どんなに勉強ができても、どんなに対人間で最強だとしても『ホンモノ』を前にしたら何の役にも立たない。

 痛みと悔しさで涙が流れる。


 泣きながら再び封魔の呪文を唱えた。


 断末魔の叫びの様な声と共に気配が消え、そのまま気を失った。




 黒い翼の様なモノと格闘してどれくらい時間が経ったのか、カーテンの隙間から射し込む日の光で目が覚めて、ムックリ起き上がる。

 ずっと涙が流れていたのだろうか。

 拭おうと頬に手をやろうとするのを力強い手で止められた。


「・・・シュナン?」


 私の顔をじっと見つめるアメジストの瞳。

 自分の両腕が血塗れなことに気がつく。


 は何だった?


 目の前にいるシュナンの背中から生まれようとしていた黒いモノを思い出して身震いする。

 がこの世に出てきていたら?

 もしかしたら、私はとんでもない拾い物をしてしまったのではないだろうか?

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