第7話 ドロボー猫?

 突然、背後から声をかけられ驚いた。

 まあ、今まで誰も来なかったのが奇跡ともいえる。金髪をキリッと後ろに束ねた若い女性神官だった。

 彼女が礼拝堂のドアを開けて私の背後に来るまで全く気づかなかった。

 先輩神官に一礼して、ずれた眼鏡をあげた。


「あ、今終わったんですけど、鳥が死んでいたので片付けを。ついでに、供養してきます。」


 掃除用具と麻袋を持ってまた一礼する。

 怪しまれないうちに一刻も早く立ち去りたいところだ。


「げぇーっ!マジでー?」


 彼女は羽の入った麻袋に鳥の死骸が入っていると信じて、あからさまに嫌悪の表情を見せた。


「良かったー。あたし掃除当番だったんだよねー。助かったよ。」


 ニッコリと笑顔で彼女は私の肩をぽんっと叩く。

 美人なのにお高く止まってなくて、快活で人当たりの良い感じの女性だ。偏見かもしれないんだけど、小さい頃からクラスで一番の可愛い女子から何故か目をつけられて苛められていたのもので・・・。すみません。


「で、あなたがロザリオ=ビアンコ神官?」


「あ、そうです。」


「あたしはリザ=マート。

 女性神官って少ないのよねー。仲良くしましょう。」


「宜しくお願い致します!」


 頼れそうな素敵なお姉様ー。リザ先輩の周りにたくさんの薔薇の花が見える。


「あっと、あたし掃除当番なんだった。」


「あ!すみませんっ!お邪魔しましたーっ。」


 リザ先輩に一礼してそそくさと礼拝堂を後にした。天使(仮)のことも気になってくる。

 この麻袋はとりあえず部屋に持っていって、後でどこか人目のつかない所にでも埋めればいいか。



 自室に入りクローゼットに麻袋を押し込んでベットの側にある文机の椅子に腰掛けた。

 窓際のベットに寝かせた天使(仮)の寝息が静まり返った狭い部屋に響く。

 ベットの方に目をやると黄緑色のオウム、ビションフリーゼが天使(仮)の枕元に陣取り、だらしない顔でその美しい寝顔に見とれている。涎なんか垂らしちゃってただのスケベ親父にしか見えない。

 あ、でも面食いなビションフリーゼがこんなにご執心ということはやっぱり天使(仮)ってば男の子なんだろうな。


 なんてことをぼんやり考える。

 制帽と眼鏡を外して文机に置いた。


 当面はこの魔法がかかっている黒い布で隠せるとして食事とか着替えとか長く匿うとしたらとかいろいろ問題が出てくるよね。

 やっぱり神官長に報告までとはいかないとしても協力者が必要なのかな。色ボケしたオウムの他に。


「疲れた」


 ポツリと呟き文机に額をつけた。

 このまま寝そう。



 小一時間たっただろうか。

 気がつくとベットに寝ていた。


「あれ?いつの間に。。。」


 無意識にベットに入ったのかな。

 寝ボケ眼で時間を確認しようと起き上がろうとするが、

 ・・・起きられない。

 天使(仮)が私の胸あたりに顔を埋めてしがみついていた。抱き枕代わりにされている。

 可愛いなー。子供みたい。


 天使(仮)が女のコっぽいせいか、男性社会に身を置いているせいかこういうシチュエーションに動じない私。幼少から父や兄の過保護で激しいスキンシップのせいもあるな。痴漢や暴漢をかわす処世術が自然と身についてしまった。


「チョットチョット!!

 何アタシの天使ちゃんに手ェ出してんのよ!?」


 鼻チョーチンをぶら下げたビションフリーゼが、バっサバっサと羽をバタつかせて抗議の声をあげた。

 静かだと思ったらあんたも寝てたんかい。


「はっ!終礼!!何時?」


「聞いてんの!?

 このドロボー猫!!」


 ドロボー猫。

 初めて言われたし。

 ホントに言う奴いるんだな。


 ビションフリーゼのバタついた羽根の間から文机の上の時計を確認できた。

 間もなく17時というところ。

 やばっ!


 腰にガッチリしがみついている天使(仮)の腕を断腸の思いで振り解いて、黒い布を掛け直す。眼鏡と制帽を身につけ、制服を正して訓練所に急いだ。


 30人程の先輩神官たちは皆さんお揃いのようで神官長に向かい5列に整列していた。

 全員の視線がこちらに集まる。


「既に見知っている者もいるだろうが、ロザリオ=ビアンコ神官だ。」


「宜しくお願い致します!!」


 神官長に紹介を賜ったので先輩方に向かって敬礼し、チョコチョコと列の後ろに加わった。

 アイレン先輩の後ろだ。


 隣の列に金髪のリザ先輩を見付けた。

 シンガプーラ神殿の女性神官は私とリザ先輩をいれて4人だけのようだ。

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