障害物35 巨大娘 森子

「さぁーやせん!」


 開幕土下座。

 宇宙人のメトロちゃんは自分のUFOが体当たりした次元ロケットから俺たちが出てきた事に、飛び上るほど驚愕し即土下座をした。


「私が! 私が悪うございましたあ!!」


 ゴンゴンゴンと地面に頭を叩きつけて謝罪し始めたメトロちゃんを俺は慌てて止めた。


「いいから、皆無事だったし。ほらね?」

「いいんですううう、こうでもしないと私の気がすみません!!」


 ヘーハチに羽交い締めにされながらもブンブンと空中ヘッドバットを繰り出すメトロちゃん。滝のような涙が空中に虹を作っていく。



「ねえ、それよりその子まで連れてきちゃって大丈夫なのかな?」


 長ランにサラシという応援団長のような姿のほのかちゃんが心配そうに俺に耳打ちしてきた。


「うーん。まぁ、この世界も元の世界と大差ないようだし、帰る場所はあるんじゃないかな?」

「それがねえ、お父さんとヘーハチさんだけなら因果律に影響なかったんだけど、異物を連れこんじゃうと計算狂う気がするんだよねえ」


 ほのかちゃんは心配そうに空を見上げる。



「あー、ほら、やっぱり。」


 そう言ってほのかちゃんが空を指差すと、辺りが急に暗くなった気がした。


「空に何か?」


 俺が薄暗くなった空を見上げるとそこには、超巨大な縞パンが存在していた。縞パンだけじゃない。その両側から伸びる足も、太ももを覆うスカートもあった。

 俺たちは巨人の女の子のスカートの中を見上げていた。



「お父さんが変なの連れてきちゃったから、コンビニに行く前に障害物が一足先に出てきちゃたよ」


 俺のせいじゃないが、と言おうとしたがやめておこう。こんな状況では何が起きても不思議じゃない。


「うわーん、私は変なのじゃないですよおお!」


 泣きながらメトロちゃんが抗議する。


「ねぇ、ほのかちゃん。ほのかちゃんの発明であの巨大な女の子はどうにかならないかな。多分このままだとコンビニに行くだけで踏みつぶされそうなんだけど……」

「それは無理だよ、お父さん。ここにいる私は、あらかじめこの世界で起こる因果の収束しかできないの。あの巨人はたぶん本来ここにないはずの因果なのよ」


 よく分からない理論だが、無理そうだという事は分かった。

 もう放っておいて次の世界に行きたかったが、その時メトロちゃんがピタリと泣きやんだ。


「もしや皆さま、あそこに見えるパンモロ巨人をなんとかしたいのでありますか!?」


 ヘーハチの拘束を解かれて地面に座りこんだメトロちゃんが、ニヤリとたくらみの笑みを浮かべた。


「私に考えがあります!」


 俺たちはUFOに乗って空高く飛び上がるメトロちゃんを見送った。

 巨人の顔は30階建てのビルよりも高い位置にある。身長100メートル程度と言ったところか。

 それまでぼんやり立っていただけだった巨大娘は、突如眼の前に現れたUFOに気付いて動き出した。


「あー、可愛いUFO。ラジコンみたーい」


 キャハハと笑う巨大娘。UFOを捕まえようとして手を上に伸ばしたがUFOは必死に逃げ回る。

 やがてバランスを崩し巨大娘は、あろうことか町に倒れ込んでしまった。

 地面を衝撃が走る。一瞬遅れて誇りを舞い上げる風が巨大娘を中心とした放射状に吹き荒れた。


「いったーい、転んじゃったあ! きゃははは!」


 セーラー服のスカートの中から伸びる生足をじたばたと暴れさせて巨大娘は笑い転げた。

 箸が転んでもおかしい年頃なのか?

 突然現れた巨大娘が大暴れするという大惨事に見舞われて町は大混乱となった。

 何もかもスケールがでかすぎる。

 メトロちゃんには悪いがこれ以上暴れさせずに早くなんとかして欲しい。



「あれっ、もしかしてこれってミニチュアじゃないのかな」


 巨大娘はキョトンとして辺りを見回す。

 何だ?

 もしかして今までミニチュアの模型の町に立っているとでも思っていたのか?


「お父さん。もしかしたらあの子、別の世界から次元の狭間を通って来た時にちょっとサイズを間違えて来ちゃったのかもしれない」


 ほのかちゃんが分析する。

 ちょっとと言うには誤差が大きすぎる気がした。

 まあ、悪気があって暴れていたわけじゃないなら良いか。

 それなら穏便に済ませられるように説得できるかもしれない。


「行ってくる!」


 巨大娘は地面に座りこんで状況をうかがっていた。チャンスだ。



「おーい!」


 俺が精いっぱいの声を出すと、巨大娘は気付いてくれた。


「あー、すごい! 小人さんだ!」


 巨大娘は簡単に俺を捕まえて摘み上げた。

 ひい、怖い!落ちたら死んでしまう!


「えへへー、小人さん。こんにちは! 森子でーす!」


 ものすごい大音量で自己紹介してくれた。悪意はなさそうだ。


「こんにちは! 北島勘太です!」


 俺は張り合うように大声で自己紹介した。

 だが。


「えー、なになに? 聞こえないよー」


 巨大娘の森子ちゃんには小さすぎる声だったらしい。俺は指でつまみあげられたまま森子ちゃんの耳元に引き寄せられる。

 と、そのとき。

 森子ちゃんは手を滑らせて俺を離した。座りこんでも地上50メートル、落ちたら助からない。


「こなくそおおお!」


 俺は手足をばたつかせてなんとか森子ちゃんの体にしがみつく。

 しかし、巨大娘の肌はあまりにも滑らかだった。

 掴みどころがなく、俺は肌を滑り落ちながら森子ちゃんの首元からセーラー服の中へ。


「きゃはは、くすぐったいよ!」


 森子ちゃんが笑った衝撃で、さらに落ちる。

 今まで見た事がない大きさのバストに沈み込み、俺はブラジャーの中にまで落ちてしまった。

 なんとか落下を防ごうと、柔らかな胸の頂点にあった突起に掴まってなんとか一命を取り留めた。


「やだーっ、どこ触ってんの小人さんっ!」


 森子ちゃんは慌ててセーラー服をめくって身をよじった。

 そのせいで俺は胸の弾力に押されてブラジャーからはみ出す。そしてまた肌を滑り今度はスカートの中へ。

 伸縮性に富んだしましまの布につかまる事ができたので、しばらくその中に退避させてもらおうと体を滑り込ませた。


「ひゃっ……!」


 森子ちゃんが黄色い悲鳴を上げる。

 そして俺は巨大な剛毛が茂る皮膚の上で、自分がいったいどこに潜り込んでしまったかを察してしまった。



「勘太さん! 今メトロが助けます! くらえ縮小ビーーム!!」


 巨大娘の服の外の世界で、メトロちゃんが奮闘している様だ。

 ここは彼女に任せよう。

 俺は事態が収まるのを縞縞の布の中でじっと耐えた。


 数分後、人間サイズに戻った森子ちゃんのスカートの中から、縞パンを頭にかぶった俺が見事に生還した。

 そしてその場に居合わせた女性人全員からキツいビンタを喰らったのだった。



「さぁーやせん!」


 終幕土下座。

 俺は赦しを得られるまで頭を地面にたたきつけることとなった。


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る