障害物32 魔法熟女 ミーナ
俺とヘーハチを乗せた観覧車ワゴン型ロケットが成層圏まで飛び上がり、自由落下する。
そして落下の速度に乗って次元の狭間を通過し、再び新たな並行世界へと舞い降りる。
次元の狭間を通過する際の虹色の膜も見慣れたものだ。
ヘーハチは腰を据えて次なる世界への到着を忍の一字で待っていた。
ロケットに搭載されたコンピューターの制御により緩やかに地上に落下、着陸。
そしてロケットのドアが開いた所には、新しく辿り着いた並行世界の北島ほのかちゃんが変わりなく出迎えてくれた。
この世界のほのかちゃんは野球帽を前後逆にかぶりTシャツとゆるいオーバーオールという姿だった。
さて、ここはどんな世界なのだろうか。
俺とヘーハチはほのかちゃんに案内されて俺の実家の近所のコンビニまで来ていた。
これまで妨害工作をしていたほのかちゃんがむしろ案内をしてくれるのだから、到着も速い。
意を決して俺はコンビニの自動扉に足を踏み出した……。
「ピースライトブレイカー!!」
上空からあまり張りのない声が聞き慣れない単語を叫ぶ。次の瞬間、光の奔流が俺の頭上を背後から掠めてコンビニの自動扉を突き破った。
「危ない、勘太どのっ!」
ヘーハチのとっさの判断により俺はコンビニ付近から退避させられ、誘爆による被害を免れた。
コンビニが謎の光線を受けて崩壊炎上しているのが見える。
あぁ、またこの流れか……。
俺は諦めて上空を見た。
上空30メートルに静止する3つの影。そのうち、こちらに近い2つは何だかもじゃもじゃの触手を無数に蠢かせている肉色の塊だった。
一方、その肉塊と対峙するように杖を構えて見据えるのはピンク色のフリフリな……魔法少女?
「モブ夫くん、モブ美ちゃん! お願い目を覚まして!」
そう懇願する女性の声も体格も、少女と呼ぶには違和感がある。
まるで、少女時代に来ていた可愛い服を調子に乗って着て見たらサイズが合わなくて愕然とした主婦……のような……。
「ファファファ、もう遅い! こいつらの体はこのモブラス星人が乗っ取った!」
「大人しく触手に抱かれるがいい、魔法熟女ミーナ!」
二つの肉塊は、よく見れば少年と少女の体に大量の触手がまとわりついているようだった。
その触手が少年少女の体を無理矢理動かしているのだ。
魔法熟女ミーナ、それがこの世界に隕石の代わりに降ってきた災厄の名だった。
彼女の放った魔法によってコンビニは大破。おそらくこのまま別のコンビニを目指したとしても彼女が放つ魔法の流れ弾でコンビニは破壊されるだろう。そんな予感がした。
となると、俺たちはあの魔法熟女の戦いを解決しなければならないんだろう。
ヘーハチに視線を送ると、彼女も意図を理解してくれた。
早い所終わらせて、次の世界に行きたい……。
「ファファファ、ここまでの様だな魔法熟女ミーナ」
「我らモブラス星人の邪魔をしてくれた礼をたっぷりさせて貰うぞ」
「嫌っ! おねがいモブ夫くん! モブ美ちゃん! 目を覚ましてぇ!」
激しい空中戦を交わした魔法熟女ミーナだったが、やはり1対2では分が悪かったのか撃墜され近場の公園に落下した。
地上では、傷ついた体をかばうミーナを囲むように触手まみれのモブ夫くんとモブ美ちゃんがミーナを見下ろす。
「ファファファ、何も怖がることは無い。貴様もすぐにこの触手の虜にしてやろう」
「永遠に与え続けられる快楽の中でモブラス星人の偉大なる意志と融合するのだ」
「待って、何をする気なの!? イヤァーッ!」
おぞましい触手がモブ夫くんとモブ美ちゃんの突き出した手から放たれる。
あっという間にミーナは触手によって絡め取られ、そのスカートや口の中までも強引に触手がねじ込まれていった。
「もごっ、もごっ、ン゛ン゛ーーーッ!! だ、誰かっ!」
助けを求めるミーナだったが、無情にもその声は再び触手によって抑え込まれてしまった。
「ヘーハチ! なにしてるんだ! はやく助け……」
物陰に隠れてチャンスを覗っていた俺はヘーハチを振りかえる。
ヘーハチはミーナの凌辱される姿を見て、鼻血を垂らしながら口で呼吸する程に興奮していた。
もはやアテにならない。
ほのかちゃんの方はと言うと、野球帽を深くかぶって眼の前の痴態の饗宴を見ないようにしていた。
仕方ない、俺がやる!
俺はヘーハチの忍者刀を抜き取り、物陰から飛び出した。
むせ返る様な臭気に満ちる湿った空気がミーナの周囲を取り巻いていた。
俺は物も言わずに刀で触手を薙ぎ払う。
触手に支えられていたミーナは地面に落下。モブラス星人に乗っ取られたモブ夫くんとモブ美ちゃんがこちらに振り返った。
体に触手を巻きつけただけのようなあられもない姿の少年少女は精神まで乗っ取られているのか己の姿に恥じることなく堂々と胸を張って立っていた。
「ファファ!? 何だ貴様は!」
「おのれ、この場を見られたからにはタダでは済まさぬ! 貴様も同化してやる!」
少年少女は一斉に触手を放出してきた。
勝負は一瞬で決まる!
俺は刀を構えて二人の間に飛び込んだ。
「ウアッ、やめろぉ…そんな所に無理やり…アッー!」
勝負は一瞬で決まった。
俺は即座に触手に絡め取られていた。
そりゃそうだ。ただの高校生がこんな化け物に敵う訳がない。
あぁ、俺はこんな所で純潔を散らし、果ててしまうのか。
俺は体中を這いまわる触手に圧倒され意識を失おうとしていた。
目を堅く閉じて、早く終わってくれと願うばかりだった。
「少年、無事か」
突然体が軽くなる。目を開けると俺は風船を持ったうさぎのきぐるみにお姫様だっこされていた。
聞き覚えのあるその声。
ヘーハチによく似ているが、もっと落ち着いた深い声。
「てんまるさん!?」
「風船を配っていたら公園に向かう君たちが見えた。声が聞こえたので助けに来た」
てんまるさんは簡潔にそう説明すると、俺を公園のベンチにそっと横たえさせた。
やだ……紳士……。
俺はてんまるさんの優しさにそっと涙した。
「ファファーッ! 貴様も邪魔者だ!」
「触手を喰らえーい!」
少年少女がきぐるみ姿のてんまるさんに向かって触手を発射する。
てんまるさんはその場でクルッと一回転しただけで止まる。うさぎのきぐるみの手には、飛びかかってきた触手が束になってまとめられて握りしめられていた。
そうか、てんまるさんもヘーハチと同じクローン機甲兵なんだったな。
素早い身のこなし、圧倒的な戦闘力。元AV女優のスーツアクターとは思えない高度な技術で触手の塊を制していく。
そして、少年少女の体から全ての触手がむしり取られた。
「ファッ!? こんなバカな……」
「こんな奴が地球にいたとは……母星に危険を知らせなければ。地球侵略は無理だと……」
グシャ。
てんまるさんの足が無感情に最後の触手を踏みつぶした。
こうしてモブラス星人の脅威から地球が救われた為、ミーナは魔法熟女を引退した。
俺たちは次の世界へと進む為にロケット発射場まで帰った。
てんまるさんも見送りに来てくれた。
「少年、私はここに残る。私がいれば地球侵略者も来ないようだから」
「ありがとう、てんまるさん」
「テンス、よくやってくれたでござる。さすがは拙者の妹!」
ヘーハチもてんまるさんに別れを告げるとロケットに乗り込んだ。
「じゃあね、お父さん! 次の世界はもっとマトモだといいね!」
ほのかちゃんの操作によってまたロケットは打ち上げられた。
激しいGに耐えながら、俺は決意を新たにする。
俺がまともにコンビニに行ける世界に辿り着いてやる、と。
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